「え~~~!どうしよう…マジで嬉しい…」
綾世は莉央から離れて食品のストックの奥から買っておいたものを取り出してきた。
「はい」
「え!?マジで?」
「たいしたモンじゃない…。莉央の趣味に合うかどうかも分からないし…」
「…開けても?」
綾世はこくりと頷いた。
「ネクタイ…」
「ん。ごめん。何いいかな、と思ったんだけど。莉央は毎日スーツだし、ネクタイするから…。どんなのいいか、僕はめったにスーツなんて着ないし分からないんだけど…」
「…嬉しいですよ。ちょっとヤラれてきてたから新しいの買おうかとも思ってたんです…」
莉央は綾世を気遣ってそう言っているのかもしれない。でもそう言ってもらえれば嬉しい。
「…よかった」
「うわぁ…どうしよう…すっげ驚いてんすけど…?綾世さんいつこんなの買ったんです?」
「ネットで!」
綾世が得意気に言えば莉央がふき出した。
「あ~~~…もう…どうしたらいいすかね?日帰りの温泉も全部誕生日企画?」
「そう。どこかに行こう、と誘いたかったけど、莉央から言ってくれて助かった」
「……だって綾世さん忘れてる、と思って…。なら俺ん中だけで勝手に誕生日だから!にしちゃえと…思って。まさか…覚えててくれた、なんて。会って二日目ん時ですよ?言ったの。それに綾世さんの誕生日みたいに覚えやすい日にちでもないのに」
「…莉央の誕生日は忘れない」
「綾世さん…好きです…。本当に…。どうしてくれようか……」
莉央がネクタイを手にぎゅっと持ったまま綾世を力強く抱きしめた。
「まずは飯だ。せっかく莉央の為に作ったんだから」
「……そういうとこ、綾世さんて現実的ですよね。普通こう盛り上がったらキスとか、ベッドとか」
「ベッドはここにはないしダメ。それに莉央はずっと運転しっぱなしだったし、腹へってるだろ?はい、どうぞ?」
綾世がにっこり笑って椅子を指差すと莉央が大人しく座る。
「誕生日だから。だから本当は客席でちゃんと座って、がよかったんだけど」
「いいえ?俺こっちでいいですよ?こっちの方が落ち着きます。綾世さん、ありがとうございます。嬉しいです」
莉央の顔を見れば本当にそう思ってくれているのが見えた。
「よかった。莉央……僕も……その、ちゃんと好き、だ」
あんまり綾世は照れくさくて言えないけれど、今日は特別だ。
「俺、マジで嬉しいです…。言葉もプレゼントも、全部が。…今日の虹も。あれ、本当に特別な気がしてきた」
「……だと、いい、な…」
小さく綾世も答えた。
莉央は料理を堪能し、片付けは一緒にやって店を出た。
「仕込みはいいんですか?」
「大丈夫だ。ちゃんとしてある。あとは明日早めに出ればいいから」
「それならいいですけど…。無理に連れ出してしまったかな、と思って」
「気にしなくていい。前もって分かってれば平気だから」
夜の短い道を一緒に歩くのももう何度もしている。
でもいつもよりも早い時間なので人や車がぱらぱらと通りがかる。
これじゃやっぱ手は繋げない。
影だけでもくっ付いておこうか。
「…さすがに手繋げないかな」
また同じ事を思ってた。
「…僕も今それを思ってた…」
小さく綾世が告げると莉央が目を見開いて綾世を見た後ふっと笑みをもらした。
「……同じ時に同じ事を思うのって…照れくさいすね」
通じ合ってるから、なのだろうか?
そうだったらいいのに。
綾世も面映い気持ちで顔を俯けた。
隣を歩く莉央の手には綾世のあげたネクタイと食べ切れなかったケーキ。
大事そうに持つ莉央が愛しい、と思う。
こんな風に人を思うのも初めてだ。
大事にしたい。
大事に思われたい。
甘えたい。
縋りたい。
自分の気持ちばかりが膨らんでいっている気がしてならない。
始めて会った日に虹を一緒に見た。
そして今日も。
「…綾世さんは虹に愛されてるんですかね…?不思議で仕方ないんですけど」
「…え?」
「だって俺、ほんと大人になってから虹なんていつ見たかなんて覚えてない位見てませんよ。それなのに綾世さんとはもう二度目。………綾世さん、三度目見たら俺プロポーズしますね?」
「は!?」
「だって綾世さんにとって特別な虹を一緒に見ていいってお許し出てる気がして。そしたら三度目はもう一生一緒にいましょうしかないでしょ」
「……何を言ってるんだ…」
綾世は顔が熱くなってくる。
「本気ですよ?あ、でも別に虹出なくても一緒にいますけどね」
「も、いいから…」
「…綾世さんすぐ照れるんだから」
「そんな事平気で言えるほうがどうかと思うけど?」
「丁度いいでしょ?俺も言えなかったら綾世さんとは一向に何も進みませんよ」
それは確かにそうかも、と綾世は少し複雑になった。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学