「っ…!」
玄関のドアが閉まった途端に莉央の腕が綾世の身体を掴まえた。
そして性急にキスを求められる。
いつもの綾世を気遣うようなキスじゃなく、熱に冒されたような激しいもので、莉央の舌が綾世の口腔を蹂躙してくる。
「り……お……」
莉央の片腕はケーキをまだ持っていて、空いているもう片方の手で綾世の後ろ頭が押さえられていた。
執拗に莉央の舌が綾世を捕らえる。
「ぁ……」
飲み込まれない唾液が口の端を伝っていくのが分かり恥ずかしい、と思っても莉央は綾世の身体を離さない。
綾世は足腰の力が抜けそうになってきて思わず莉央の背に手を伸ばして服を掴んで縋るように体重を預けた。
「綾世さん…」
莉央の声が色香を漂わせて掠れている。
心臓が大きくどくりと音を立てた。
そして莉央のキスの余韻とその掠れた声に綾世の身体がずくりと反応してしまう。
莉央は片手で綾世の身体を子供を抱っこするかのように強引に抱き上げたのに綾世は莉央の首に腕を回すと、莉央はダイニングテーブルにケーキを置き、綾世を抱き上げたまま無言で寝室に向かう。
「莉、央…」
ぎゅっと莉央に抱きつく腕に力を込めた。
もう綾世だって莉央を待っていた。
「…今日一日我慢しどうしでしたから覚悟して下さいね」
「……いい、んだ…。莉央……僕も……」
さらにぎゅうっと力を入れる。
「綾世さん…どきどきしてますよ?」
「ん…だって……莉央が…」
「俺も…です。……綾世さんはいつも綺麗で綾世さん見た人は皆見惚れるし俺、気が気じゃなくて…。最初は俺だって見惚れて…なんて綺麗な人だろうと思いました。それなのに一人で全部抱えて頑張ろうとして…。壊れそうな…張り詰めた糸が今にも切れそうな感じがして…放っておけないなんて勝手に思い込んで…」
莉央が綾世の身体をベッドに下ろし、そしてぎし、とベッドに乗ってくる。
綾世は首を横に振った。
「間違ってない……。僕はもういっぱいいっぱいだった。莉央がこうしていてくれなかったら…多分もう壊れていたかもしれない…」
「綾世さん…」
莉央が何度も綾世の唇を啄ばむ。
啄ばみながら綾世の服をもどかしそうに脱がせていった。
「他の業者にも見積もり頼んでるだろうに、何でウチ?と思いましたよ。値は頑張ったけどいくらかはやっぱり大手には勝てない…それなのに…?って……あの時、虹を見たから、ですか?」
「そう、だ…。値はほとんど変わらなかった。だったらやっぱり…虹を信じて……。間違ってなかった、だろう…?それに、莉央が言ったんだ……店の名前も知ってて…虹が祝福してくれてるって……。店が出来るのを楽しみにしてたって……一人で焦っていたのが、嘘のように消えた、んだ。…嬉しかった……。それに、次の日も、莉央は僕の料理を食べて幸せそうに笑った。だから…僕は自分を思い出せたんだ……僕は自分の作った料理を食べてもらって幸せそうにしているのが見たいんだ、と…思い出した、んだ…全部、莉央のおかげ、なんだ…」
「そ、う…なんです、か…?」
莉央が泣きそうな顔をして綾世を抱きしめた。
「嬉しいです…。綾世さんがそんな風に思っていてくれたなて…」
綾世の耳元に莉央が囁いた。
「綾世さん…いつもつれないのに今日は大盤振る舞いしすぎですよ…」
「だって…莉央の誕生日だ、から…特別な日だ。あの今日の虹も…莉央と初めて出かけた日で、莉央の誕生日で…」
莉央が綾世の言葉の途中で軽くキスする。
「……俺、今日一生分の幸せ貰った気がする」
「大げさだ」
「だってもうどれもこれもが全部特別だったんですよ?最初は分かってなかったけど」
「うん…驚かしたかったんだ…来年は朝一番におめでとうと言うよ………いい、か?」
来年はなんておこがましいだろうか?
「じゃあ来年は綾世さんからキスしながら言って下さいね。約束。綾世さんから……だって綾世さんからあんまりキスもしてくれないし」
「ん……だって……」
拒絶されたら…耐えられないから。
「いつでもいい、んです。俺…本当に人を好きになるって初めて知った。前にも、何度も言いましたけど綾世さんが大事です。綾世さん」
莉央が綾世の首筋に唇をつけてなぞられれば、ぞくりと肌が粟立つ。
すでに綾世は莉央に服を剥ぎ取られて裸になっていた。
「莉央、も…」
綾世が莉央の服に手をかけた。
そのまま莉央は我を失ったように、でも強引なところはなく綾世の身体を揺さぶり何度も精を吐き出した。
綾世も声が掠れる位喘がせられ、そして疲れ果て、でも安心して、満足して莉央の腕の中でいつの間にか眠りについていた。
テーマ : BL小説
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