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虹の指針 65

 「なんか今日随分並んでいるんですけど…」
 パートの人が外を見ながら綾世に報告してきた。
 綾世もどうもいつもと雰囲気が違うと感じていた。
 開店まではまだあと30分もあるのに外では長蛇の列になりかかっている。
 いつもだったら開店時間をめがけて2、3組並んで、あとは次々席が埋まっていくのに、開店前からのこれはオープンした時以来で首を捻る。


 その時綾世の携帯が震えた。
 「もしもし」
 『綾世さん!雑誌に載ってましたよ!写真こそ載ってなかったけど綺麗なシェフが織り成す料理が云々って…』
 「は!?雑誌に!?……この間のか!」
 電話の相手は勿論莉央だ。
 『コンビニに寄って、たまたま名刺にあった雑誌見つけたからちょっと中見たら…。買ったのであと持って行きますね』
 「……今の時間で外にすごい行列が出来てるんだ…」
 『………マジですか?』
 「ああ…」
 『……大丈夫ですか?』
 「まぁ、どうせ店の中に入れる人数は決まってるから…。どうにかなるとは思うけど…」
 『じゃあ配達兼ねてお昼位に行きますね。手伝います』
 「すまない…」
 綾世が電話を切った。


 「莉央があとで助っ人に来てくれるって」
 パートがわっと喜ぶ。
 人当たりがよくてかっこいい莉央はパートにも密かに人気だ。莉央はランチの忙しい時間に滅多に来る事はないけれど終わり間際に顔を出したりしてるので皆知っている。それにオープンの時の働きぶりも知っているから頼りになる戦力というのも分かっているのだ。
 綾世はいつもただ働きさせてしまっているから本当は莉央の手を煩わせたくはないのだが。

 「雑誌に載っていたらしい。写真はなかったらしいけど。今日のコレはそのせいだ。でも写真もない位だからすぐ納まると思うけど」
 「頑張ります」
 パートさんも意気込む。
 そしてあまりの人数に急遽ノートを用意して名前と人数も書いてもらうようにする。
 取材はNGだと言ったのに。
 綾世に憤りが浮かぶが今更外の状況を見れば帰れと言うわけにもいかないしどうしようもない。


 オープン以来の戦争になった。
 途中で莉央が駆けつけてきて洗い物などを手早くしてくれる。
 莉央が来たので厨房担当の者もホールに回し接客してもらう。
 元々いつ何があるか分からないからと接客も出来るようにしていたので問題はない。

 1時半を過ぎても席は満席。
 終わるのか?とさすがに綾世も疲れてくる。
 何十食作ったんだろうか…?
 夜もこれだったらとんでもない事になりそうだ、とげんなりしてくる。
 ほどほどでいいのに…。


 「綾世さん、眉間に皺よってますよ?」
 「そうもなる!」
 「クレームが!」
 パートが飛び込んでくると莉央がまかせて、とホールに向かう。
 ゆっくり話す暇もない。莉央の顔を見る余裕すらないんだから。


 莉央は仕事あるので、と途中で抜けていき、その頃にようやく一段落出来るようになった。
 それにしても一番酷かったのは綾世を見ようとする人が大勢いた事だ。
 一人で賄っているから勿論綾世は調理にかかり切りでホールには出ない。それなのにホールに出て来てほしいとか、クレームを言って出させようとかする輩が多かったのだ。

 苛立ちが治まらない。
 莉央が置いていった雑誌を見れば本当に写真もなにもない店の名前とさらっとした莉央が言っていただけの内容。
 料理も食べてもいないのだから書きようもなかったんだろうけれど。
 訴えてやろうか、とも思ったけれど時間と金がかかる。
 たったこれ位の記事ならすぐにほとぼりは抜けるはずだ。
 写真でも載ってたらまずいことになっていたと思うが、そこはほっとした。


 綾世はぱらりと雑誌のページを捲った。
 イタリアン特集だ。
 クリスマスが近いからデートスポットに、という事らしい。
 あるページで綾世は捲る指を止めた。
 じっと見入る。

 「川嶋さん!レジOKです。合ってました。あと他もランチ分の仕事終了です」
 「ああ、すみません。ご苦労様でした…」
 ぱたんと綾世は雑誌を閉じた。
 「今日はいつもより忙しくて大変でしたけれど…助かりました」
 パートさんに向かって頭を下げる。
 「いいんですよ~!莉央くん見られたし!」
 ね~と頷き合っているのに綾世が苦笑した。
 「今日の分は大入り袋出さなきゃないですかね」
 やった!とパートさんが喜ぶのに綾世も笑いを漏らした。
 
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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