「疲れた……」
綾世はさすがに疲れ果ててマンションに戻ってきた。
「綾世さん、お風呂先入っちゃってください!手伝ってあげますから」
「……いらないって」
「今日はオープン以来のとんでもない惨状でしたね…」
「ほんと…オープン時より酷い。顔見せろだのクレームだのって!」
莉央が綾世を脱衣所に連れて行って服をいそいそと剥いでいく。
綾世は本当に疲れていて莉央に抵抗する気力もなくなっていた。
「はい、ゆっくり入ってきてくださいね~」
全部剥かれて風呂場に押し込められる。
疲れて帰ってきて電気のついた部屋と温かい風呂が待ってるなんて。
今までには考えられなかった事だ。
湯船に入れば疲れた身体にお湯が沁みて溜息が漏れる。
莉央だって自分の仕事で疲れてるのに、昼間は綾世の所で手伝って、家の事までして…。
綾世は考え込んでから風呂の呼び出しボタンを押した。
「どうしました?」
すぐに莉央が飛んできた。
「……莉央は今、忙しい?」
「忙しくはないですけど?」
「莉央も風呂、入ったら…?莉央だって疲れてるのに…」
「いいんですか?」
莉央が喜色を浮べる。
「考えてみたらその方が節約か…?」
綾世はいくらか家賃として入れているけれど見合ってないと分かっている。
莉央はさっと潔く脱いですぐに嬉々として入ってきた。
照れくさい、恥ずかしい、でもそれより一緒にいたかった。
「莉央…」
湯船に入った莉央の首にそっと腕を巻きつけた。
「今日、助かった…ありがとう…。いいけど僕は本当に頼り切ってこれでいいのか…?莉央は莉央の仕事があるのに…」
「別に気にしないでいいですよ?俺のお昼休み時間なんですからどう使おうと俺の勝手です。それに俺ナニゲに仕事出来るんでサボっててもあんまし文句言われませんから。その分の新規取ってきたり大口取ってきたりしますからね。だから全然大丈夫ですよ?…綾世さん、頼り切っちゃってるんですか?」
「ああ…今日も表に並んでる行列見てパートさんと途方に暮れてたら莉央から電話で、莉央が来てくれるから…って…」
「嬉しいですよ?もっともっと俺だけに縋っててください。いくらでもいいです。と言いつつ途中で抜けるの心苦しかったですけど」
莉央はちゃんと自分の事をしなきゃない事はする、だからいいのだ。
綾世は頭を振った。
「莉央はそういう所がちゃんとしてるからいいんだ。全部がなし崩しってないから。ちゃんとなんでも境界線がある。だから僕も頼りにして甘えられるんだ」
「そうですか?境界線ねぇ?自分じゃよく分かりませんけど…」
「例えば、僕が話したくない、まだ話せないという時すぐに引っ込めるだろう?ずかずか入ってこない。金にしても僕が出しているのは最低限だけど、それでもちゃんと受け取ってくれる。それを受け取ってもらえなかったら僕はここにいられない。でも本当にもう少し上げてくれ。ここいら辺の家賃もっと高かったんだから」
「それはいらないですよ。綾世さん来なかったらその分も自分で払ってたんだし、俺が助かってるのも本当なんですから。俺が出来なかった家事とかもしてくれてるし…いつも感謝してます」
「そんな事莉央のしてる事に比べたら些細な事だ」
「それはいいですから…ねぇ、綾世さん、キスしていい?さっきから我慢してんすけど?話してんのに悪いなぁ、と思って。…そういやお帰りなさい言ってませんでしたね。お帰りなさい…今日は大変だったけど頑張りましたね」
莉央がくすくす笑いながら何度も軽くキスを重ねる。
「ん…た、だいま……莉央もお疲れ様でした」
段々とキスが深くなっていく。
舌を絡められると洗った髪の毛から伝わる水滴と唾液が混じってくる。
そして息が浅く短く、熱くなってくる。
「ぁ……」
莉央の手が湯船の中で綾世を掴まえた。
綾世も手を伸ばせばすでに莉央の物も大きく天を衝いている。
「ダメです…。したくなっちゃいますから。ご飯食べないと。綾世さんはちゃんと飯食べて今日はゆっくり寝ないと明日持たなくなりますから」
「…明日も混む…かなぁ…?」
「う~ん…混むでしょうね。でもすぐに落ち着いてくるでしょうから」
「うん……。はぁ…」
今日の混み具合が明日もとなればげんなりして来る。
「在庫は大丈夫ですか?」
「いや、そうだ…トマト缶とピューレとあと他にも持ってきて欲しいものがある。風呂あがったら書く」
「うん。じゃ、明日もお昼に行きますね」
「ほんとすまない…」
「いいですよ」
莉央が笑みを見せてくれるだけで安心してしまう。
本当にもうこんなに莉央を頼り切ってしまっているんだ。
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