一緒にキッチンに立ってご飯の用意をぱっと済ませて片付けも一緒にする。
風呂も終わって綾世は莉央にちゃんと話をしようと思っていた。
「ベッド行きますか?」
綾世は首を振った。
「話…いいか?」
ソファに座っていた綾世の隣に莉央は座ると見ていないけれどついていたテレビを消した。
「今日来たの…イル・ビアンコの岡崎 柾之だ」
「うん。パートさんが思い出したので俺も分かりました。テレビで見た顔でしたね。綾世さんもイル・ビアンコにいたんですね?それに前にメニューばっか考えてた、って言ってましたよね?…てことはイル・ビアンコでもトップ?」
「…初めは僕と柾之で始めた店だ。前に言っただろ?共同経営で失敗したから…って」
「……そういや言ってましたね。…………綾世さんがイル・ビアンコの…」
莉央が絶句している。
「……そりゃ料理美味いはずですよ…」
はぁ、と莉央が頭を抱えながら綾世を見た。
「何店舗も展開して…高級志向の系列の店は確かミシュランの星獲得した店もあった気がしますけど…?」
「あったな」
「……そのメニューも綾世さんが考えてた?」
こくりと綾世は頷いた。
「イル・ビアンコのメニューのほとんどは僕のレシピだ…」
「…マジですか……」
莉央は言葉を失っている。
「メディアで取り上げられて、柾之はメディア担当。僕は店舗を広げるのにメニュー作り。……僕はそんなに経営を広げなくていいと言ったんだ。自分で作って提供したかった。でも意見はどうしたって合わなくて…」
「……今、イル・ビアンコ評判悪いですよ」
莉央がふっと息を吐き出しながら言った。
「料理の質が落ちたとか。…そのおかげで経営が苦しくなってる、とも聞きます。業者への支払いも滞りがちというのも聞きますよ…」
「……そう、なのか?」
「ええ。ウチは弱小だから取引ありませんけどね。って綾世さんは分かってるか」
くす、と綾世が笑った。
「……でもよく綾世さん、俺んとこの会社に見積もり依頼してきましたねぇ。イル・ビアンコにいたなら大手いくらでも知ってたでしょう?」
「知ってたし、知り合いもいる。けどそうじゃなくて全部一から始めたかったんだ。知らないトコで、知らない中で、全部自分で…」
「だから…取材もNG?」
「そうだ…。イル・ビアンコは、柾之は、取材で取り上げられてからおかしくなっていったんだ。柾之は拡大していくのに夢中になって、テレビでも持て囃されて…」
「………聞いていいですか?」
莉央が綾世を伺う様にじっと見たのに綾世は小さく頷く。
「…あの人とはいつ、から…?衝突してから、って言ってましたよね?それに惹かれてた、とも言ってたけど……綾世さんは、好き…だったんですか?」
「……いつ、は…大分後だ。本当におかしくなってから…。僕が店を逃げるようにして辞めたのは今年初めで…関係は去年秋位からだから…本当にそんなない…。……それと、僕は好き、だと思ってたけど…どうも違ったらしい。その時はそう思っていたけれど……比べてるんじゃないけど…莉央に対する気持ちと全然違う、んだ…」
莉央を想う気持ちとアイツに対してはあまりにも違いすぎる。
状況も違うという事もあるかもしれないが、莉央の彼女が出てきた時に自分は去ろうともしなかったんだからやっぱり違うと思う。
「前に言っただろ?柾之には彼女がいたって…。結婚もしたって…。僕はそれを普通に祝福出来た。いや、ちょっとは取られた感じはしたけど、それだけだ…。バレた時も僕は逃げ出してきた。もう何もかもが嫌になっていたんだ。…でも莉央の彼女が来た時…一瞬は出てくのを考えた。でも……出来なかった。……莉央が謝るんじゃない。僕が謝らなきゃないんだ」
「謝る?」
莉央が眉間に皺を深く刻んだ。
「だって…今まで言われて…」
「何をです?」
綾世は莉央から視線を逸らして顔を俯けると、莉央がそっと綾世の肩を抱き寄せて促してくる。
「……僕のせいだ……って……。前に言っただろう…?高校の時の話…。…その先生にも言われた。柾之にも…。関係ない奴にも……親にも…僕が誘っているんだと…」
ぐっと莉央が綾世の肩にかけた手に力を入れた。
「綾世さん、そんなの本気にしてんの?」
「……え?」
「それ違うでしょ。相手が綾世さんに惹かれてるのを自分が認めないから綾世さんの所為にしてるだけです。綾世さんが悪いわけないでしょう。俺にだって最初はつれない位だったのに」
莉央の優しい声が綾世の心の奥まで響いてくる。
今まで誰もそんな事言ってくれた事などない。
莉央が本当にそう思っているのか、優しさでそう言ってるのか綾世には分からないけれど、それでも誰もそんな事言ってくれなかった。
「莉央…」
綾世は莉央の胸に縋った。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学