「綾世さん…」
莉央が力を込めて綾世を抱きしめてくれる。
「莉央……り、おう……」
ぼろぼろと涙が湧いて出てきた。
堰を切ったそれはとてもじゃないけど治まりそうにない。
人の前でなど泣いた事ないのに、すでに莉央の前で泣くのは何度目だろう?
いつも我慢して一人で静かに波が過ぎるのを待つのが常だったのに、莉央に会ってからは全部を莉央が受け止めてくれている。
「綾世さん、言ってるでしょう?我慢しすぎです。だから始めの方に言ったでしょ?頑なだって…。やっとそれ取れてきたかなぁ?……頼っていいです、甘えていいです。泣くのも思い切り泣いていいですよ?今までそんな人の勝手なエゴの塊を綾世さんが抱えてたなんて」
莉央に会ってからは心の奥底に蓄積されていた塊が小さくなってきてたんだ、と伝えたかったけれど激しい自分の嗚咽に邪魔されて何も言えない。
「思いっきり出してすっきりしてください」
「り、お……服、…ぐ、ちゃ…ぐ、ちゃ……」
「そんなの洗濯すりゃいいですから。鼻水も拭いていいですよ?」
「バ、カ…っ!」
泣きながら笑いが零れた。
いい年して。
莉央より年上のはずなのに自分の方がずっと幼い。
もうそれは分かってた事だけど。
「り、お……なん、で…そんな……やさし、い…?」
「え?俺優しくないすよ?言ったでしょ?彼女になんて全然…面倒って思ってたって。そんなモンだと思ってたけど…綾世さんじゃないけど、全然違う。泣かれた時もあったけど、そん時もめんどくせぇなぁと思っただけで結局突き放して。…それが綾世さんだともう全然違いますから。もっと泣いていいし、出して欲しいって思うだけです。愛おしくてもう全部を受け持ってやりたい位です」
「そ、んな…の、もう……とっく、に…」
「そう?」
「ん…莉央……」
「綾世さん、ほら顔拭いて。服で拭っていいですから」
莉央がくすくす笑っている。
「莉央…笑ってると、安心する…んだ」
「そうなんですか?……ああ、…もう……!ねぇ、綾世さん、キスしていい?」
「ダ、メ、…だっ」
顔がぐしゃぐしゃだ。
「俺は気にしないけど…」
「気に、するっ!」
「じゃ、早く拭いて下さい。はい、ティッシュ」
莉央がティッシュで綾世の顔を拭う。
「ああ、キスもいいけど…あっち行きましょうか?それともここで?」
「……あっち」
莉央が笑って綾世を抱き上げた。
「今度はここでも、風呂場でもイタしましょうね?」
綾世の耳元にとんでもない事を囁いてくる。
「ヤ、だっ!」
「誰もいないんですから気にしなくてもいいじゃないですか」
「僕が気にするっ」
なんてこと言うんだ!
「ホントこういうとこはピュアなんだから…エロくなってもいいですよ?俺にだけなら」
「無、理……」
こんな事言われるのでさえも身体がざわついて仕方ないのに。
くすくす笑いながら莉央は綾世をベッドまで運んだ。なんで軽々抱き上げられるのか。綾世は莉央の腕に手を伸ばした。
「?」
どうかした?と言わんばかりの莉央の顔。
「……軽々…と…」
「ああ…綾世さんを?だって俺毎日食品の倉庫とかで一斗缶の油片手に2個ずつ持ったりしてますから。鍛えられてますよ?でもそのうち絶対腰悪くしそう…」
「その時は看病してやる」
「いえ、看病はいいので上乗ってくださいね?」
「………は?」
「だってほら、腰痛くしたら…」
綾世は慌てて莉央の口を塞いだ。
「おま、え…ちょっと……」
耳まで真っ赤になってるはず。
そして口を塞がれながらも莉央は肩を揺らして笑っていた。
綾世の身体をベッドに下ろしてキスする。
「上に乗る練習する?」
「しないっ!」
「なんだ」
莉央はして欲しいのか…?思わず伺う様に見ると莉央が苦笑する。
「あのね、真面目に考えなくていいですから!ホントにもう…。綾世さんがしたい事をしたい時にすりゃいいんです」
「したい時…?僕が?……僕が莉央、にしてもいい、のか…?」
「は?……ええ、まぁ…何かしたいんですか?」
「あ、じゃあ……莉央…に僕が、してもいい…?」
「………ええと、……」
莉央が困った顔をして逡巡している。
やっぱり嫌なのか?
「……いいですよっ!」
莉央の返事に綾世はゆっくり半身を起こすと綾世から莉央の服を脱がせ始めた。
「綾世さんも脱いで?」
莉央の手が綾世の身体に触れながら服を脱がせていく。
そして綾世はそっと莉央の猛ったものに触れた。
「…舐めても、いい?」
「………………あの、……綾世さんがしたかったのってソレですか?」
「うん。そうだけど?」
莉央が盛大な溜息を吐き出した。
「…なんだ。びっくりした」
「?」
そして頭を抱えて笑っている。
「そんなのいちいち断らないで下さいよ。俺、ヤられるんだと思った」
「そっ!……」
僕が!?莉央をっ!?
綾世は大きく目を見張って、そしてふるふると首を横に振った。
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