パートさんとバイトに簡単に事情を説明し、このままだと予約がなくなるので、その24日の夜は従業員で給仕も自分達でするという打ち上げにして、早いけれど25日から年明けるまで休む事も告げる。だがこれも主婦にはかえって家の事が出来ると言われ、学生は早めに実家に帰られると文句は出なかった。
なにより、今の状態なのに誰も辞めるとも言わなかったし、24日にも全員が家族や彼氏、彼女を連れて来ると言ってくれた。
人なんて、と思っていた部分もあったけれど、こうしてついてきてくれる人もいると思えば嬉しい。
そして誰もがディナーコースを食べてみたかった!と声を揃えたのに綾世は嬉しくなる。
案の定、24日の残っていた予約も消えた。
これでかえってすっきりした。
「莉央、ただいま」
上機嫌で綾世は莉央のマンションに帰った。
「おかえりなさい。……どう…?」
莉央が玄関まで出てくると綾世の顔を見て怪訝な表情を見せた。
予約が消えていってる事とかは全部莉央に言っていたけれど24日の事は言ってなかった。
それが予約が消えてるのに上機嫌で帰ってきたので莉央は訝しんだのだろう。
「うん。24日の予約が消えた」
「………消えた、って」
莉央が絶句する。
「いいんだ。すっきりした。だから24日は従業員の打ち上げにしたんだ。皆家族や恋人連れてくるって。莉央も勿論来てくれるだろう?」
「そりゃ、当然。休みの日だしずっと店にいるつもりでしたけど…ええと…???」
いまいちまだ莉央は理解していないみたいで頭を傾げていた。
「それと早いけれど25日から休む。どうせ開けても客は入らないから。年明けまで休むことにした」
「え!?……あ、でも……」
莉央の方が慌てる。
「綾世さん…いいの?…それ、で?」
「がたがた言っても仕方ないから。実際開けてても今の状況じゃかえって赤字だ」
「………イル・ビアンコまじでヤバイみたいです、よ?」
「……そうなのか?」
莉央が真面目な顔で頷いた。
「だったら僕にかまけてないで店をどうにかすればいいのに」
綾世は肩を竦めた。
「………僕にはもう、関係がない」
切ったのだ。
自分の中でイル・ビアンコはもう終わっている。
それでもやっぱり自分達で始めた頃の事を思い出せば少しは寂寥感がわいて来る。
でももう自分には関係がない事。
そう思いながらも複雑だ。
そんな綾世の心が分かるのか莉央が何も言わずに肩を抱いてくる。その莉央に甘え、綾世は頭を莉央の身体に預けた。
閑散としながらもそれでも変わらず食べに来てくれる人もいる。
かえって待たなくていいからいいと言ってくれる人も。
きっとちゃんといつかは戻ってくる。
それを待つのだ。
年末年始を挟むことでよかったのかもしれない。
年が明ければ心機一転でまた一から出発の気持ちになれる。
いい方に解釈なんて前だったら考えられない事だった。
どうして、何故、ばかりで自分が凝り固まって、前を向くなんて以前は出来なかった。
それなのに今は違う。
後ろで莉央が支えてくれていた。
「莉央の会社には…?何もない?」
「今の所はないですね。…それがかえって怖いですけど。でもウチまで手が回らないのかもしれませんよ?ウチでも一応会社ですから。業者間の繋がりだってあるし、信用だって、言ってはなんですが、あの人と比べたらウチの方信用されると思いますもん」
「……それならいいけど」
とにかく自分だったらいいけど、莉央に迷惑がかかるのだけは避けたい。
莉央が言っているのは本当の事らしいのに綾世はほっとする。
莉央は嘘は言わない。
隠したい時は営業スマイルを見せるのだ。
綾世がそれを分かっているのも知っている。
だからそれは嘘とは違う。
莉央は誠実だ。
このまま何事もなく過ぎてくれればいい。
しかし柾之の狂気を孕んだような目が気になった。
あれはイル・ビアンコが莉央の言うとおりに危ない状況に陥っているからだろうか?
だからあんな暗い目をしていたのか?
「綾世さん…?」
「ん?」
「…いえ」
莉央が綾世の顔を覗きこみ、そして首を振った。
「ごはんにしましょ?」
「ん……莉央、本当に負担じゃない…?」
毎日毎日だ…。綾世は自分の好きなしたい仕事をして、莉央は休みの日には店を手伝い、こうして毎日朝昼晩まで…。
「全然。もう一体何回言わせるんですか?だから!綾世さんがいなくてもどうせ自分の分でしなきゃないんですから!」
そうは言うけれどいつも莉央に手抜きがなくて疲れてしまうのではないかと思うけれど、莉央は必ず否定する。
手抜きしたい時だってあるだろうに…。
店じゃないんだから無理などしてほしくないのに…。
テーマ : BL小説
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