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2012.08.27(月)
「明羅」
明羅は首を振った。
「あのまま明羅が来たら日にちを教えられると…明羅…」
怜が明羅を抱きしめた。
「嘘のつもりじゃない…」
「分かってる…。見てたもん…」
明羅はずっと首を振っていた。
「明羅…俺はお前に返事しないうちに嫌われたのかと思って…」
「ない、から…。俺…やっぱり怜さん、好き…。怜さんだけ…なんだ」
「明羅…。俺もお前が好きだ。好きなんて軽いもんじゃない」
「お。俺だって!」
好きって…。
同じ…?
ずっと、10年前から…知ってた人。明羅の欲しかった音を持つ人。
つい1ヶ月前までは欲しいのはその音だけなはずだったのに、今は違う。
怜は明羅を離さなかったが、しばらくしてそっと明羅の身体を離した。
「着替えて来い。あと家に連絡」
「…うん」
腕が離れるともう寂しくなる。
表情に出てしまったのか怜が苦笑しながら明羅の頭をくしゃりと撫でた。
パソコン部屋に明羅用のチェストまで用意してくれて、すっかりここは明羅の部屋のようになっている。
ないのはベッド位…。
ベッド…、ではっとした。
覚悟って…。
うわぁ、と思いながらも明羅は着替えを済ませてリビングに戻った。
ソファに座っていた怜の隣に明羅はちょっと離れて座る。
顔が熱い。気付かないで…。
「………」
怜がじっと明羅を見て首を傾げた。
「どうした?」
それ聞く!?
明羅は答えられなくて耳まで真っ赤になってくる。
怜は考えているようで、少ししてああ、と頷いた。
「覚悟、の事か?」
やっぱり気付かれて、さらに身体が熱くなってしまった。
「今日は無理だろ。明日、お前学校だし」
あ、そう、なの?
ちょっとほっとした。
「………そうあからさまにほっとされるのも俺としては面白くないが?」
だって…。
「ま、いい。ところで宗の事だ。宗がついてきてる?さっきもお前の後ろにいたな?」
「…いつも。朝電車の駅から学校までついてくる。帰りも。昨日は電車に一緒に乗ってきて、それで途中で降りたんだ…。怜さんの、あれ見たあとすぐに帰ったけど、家の前までついてきた」
途中で助けてくれた事は別に言わなくてもいいかな…?
「俺は家に入って、あと帰ったらしいけど」
「……あいつは何がしたいんだ?」
「全然分かんない」
明羅はかぶりを振った。
「今んとこは別に煩わしいだけで何もないけど。…ああ、と…その…。怜さんと恋人同士なのか、って聞かれた…。あとそんなに好きなのか…って、も…」
「そこは肯定しとけ」
え?
「宗はまぁ、いいや。そのうちどうにかしよう。…ところでブログ見たな?」
明羅はこくんと頷いた。
「…メールに入れてくれれば…」
「…返事来なかったら、と思った。携帯も電源切って出ねぇし。とりあえず一方的にだしゃいいか、と思って」
怜が立ち上がってピアノに向かった。
<愛の夢>だ。
明羅はドキドキしてそれを待った。
3つの夜想曲。一番知られてるのは3番だけど…。1番からだ…。
旋律が歌っている。
陶酔が明羅を襲う。
愛と死、恍惚、陶酔。
怜はその様に弾いた。
歌曲の詩をあちこち思い出す。
あなたの腕の中で
私は目覚めた
口づけで天国を見た
愛するかぎり愛せよ
旋律の歌の部分と伴奏が一体化してる…。
怜さんの声が歌っているような音。
ああ…コンサートの時と全然違う…。
静かに曲が終わって、怜が手を離した。
怜が明羅の脇に立った。
「…ど?」
「ん……」
ただ明羅は頷いただけだったけど、怜も明羅がちゃんと思いを感じた事が分かっているとうで、満足そうだ。
「これなら人前でも弾いてもいいかな?」
「……ちょっとやだ、な」
「ん?」
明羅の返事に怜がきょとんとした。
「恥かしい、かも…」
だって、本当に陶酔してしまいそうで。
それに怜は笑った。
「ば~か。そんなのお前だけだろ。誰も俺がお前の事考えながら、なんて分かるはずないだろが」
「………」
だから、そんな事言われたら余計恥かしくなるしっ。
「なぁ、お前のジュ・トゥ・ヴが聴きたい」
「えっ!?」
「今じゃなくていい。週末、聴かせて?」
にっこりと、ちょっと意地悪そうな笑顔で言う怜の顔を明羅は凝視した。