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虹の指針 80

 「綾世さん、帰りましょう?」
 「業者!お前の会社で賞味期限切れの食品を売っただろう?マスコミに…」
 「その件についてはすでに全部回収済みです。幸いにもどこの店でもまだお客様に提供する前に気付いたので全部回収交換が済んでます。詫び状も全部出してありますよ。ウチの手違いというよりメーカーからの手違いでしたけどね」

 「……いつやら走り回ってた時、のか…?」
 「そうです」
 綾世が問うと莉央が優しい目を向けてくる。それがこそばゆい。

 「ウチの落ち度というよりメーカーの方の手違いでしたからね。それが?……ああ、それで綾世さんを脅したんですか。大丈夫なのに。そのメーカーはそりゃ一流の大企業ですから、そんなの流したらアイツは取引中止にされるでしょうし干されてしまいますよ。そんな荒探ししている暇があるんでしたら融資先でも探した方がいいのに。聞いた話じゃ最早不渡り出す寸前ですよ?」
 「うるさい!川嶋が戻ってくれば…!」
 「綾世さんが戻ったとしてももう時間の問題でしょう?そんなに簡単に済む所じゃない所まですでにいってるはずです。さ、綾世さん、帰りましょう。アンタは二度と綾世さんの前に現れないで下さい。綾世さんはもう俺のですから。絶対離しませんから。ね?」

 莉央がまた綾世の頭にキスする。
 「…おまえ、さっきから何して…」
 綾世が小さく莉央に抗議する。
 「ん?ただのやきもちですけど?」
 莉央が平然と言い放った。


 「綾世さんはすでにアンタから離れた。今は俺といます。これから先もね。全部を綾世さんの所為にして、綾世さんを貶めて、都合のいい時だけ戻って来い?そんな人の所に綾世さんが戻りますか?俺は綾世さんを愛してます。全部ね。綾世さんは?」
 「僕、も…そ、の…………あ、い、してる…」
 莉央は堂々と言ったけれど、綾世は恥かしくて消え入りそうな位小さい声で返した。
 「…もう、ホント可愛いんだから」
 耳から首から身体まで全部が熱くなってくる。なんで人前でこんな事言わなきゃないんだ?人がいなくたって恥ずかしいのに!
 「アンタが入る余地はありませんので。では綾世さんはいただいていきます」


 莉央は綾世の身体を抱き上げた。
 「り、おう…」
 「綾世さんは黙って俺にしがみついてて」
 言われる通りに綾世は莉央の首に腕を回した。
 柾之からの声はもう聞こえなかった。


 莉央は黙ってイル・ビアンコを出て行った。
 これがきっと綾世にとって過去との決別、そして新しい自分と、一緒にいてくれるだろう莉央との本当の出発かもしれない、と密かに心の中で思い、綾世は莉央の首に回る腕に力をこめた。


 外には見慣れた莉央の車だ。
 「綾世さん、乗って。色々話したい事ありますけどまず帰りましょう。いいですね?」
 「……ん」
 身体を下ろされて莉央の車に乗ったけれど莉央の声が硬い。
 怒っている?
 呆れてる?
 ……嫌になった?

 「……莉央、携帯、つながって、た…?」
 「ええ。つながってました」
 莉央は前を向いたまま答え、車に乗りこんで発進させた。
 ああ、全部聞こえてたのか…。
 だから、か…?
 さっきまでは、柾之の前では愛してる、まで言ってくれたのに、今は莉央は綾世を見てもくれない。
 ずっと前方を睨んだまま莉央は運転している。

 あそこでは柾之から連れ出すためにああ言ってくれた、のか…?
 だからアイツに抱かれてよがってた事、腰振ってたことを聞かされて莉央は呆れて…それで、見てもくれない…?


 また涙がせり上がってきた。
 莉央に飽きられたらどうしたらいい…?
 今、新しい出発だと思ったばかりなのに莉央が見てくれないだけで足元が崩れそうに感じてしまう。
 「綾世さん!?どうし…?」
 「り、お……嫌に、なった……?」
 「はぁ?」
 「僕の…事…聞かされ、て……だから、見て、…くれな、い…?」
 「一体何言ってんすか!?」


 「だ、って…莉央…車、乗ってから……見てくれ、ない…」
 莉央は信号で車を止めると大きく溜息を吐き出した。
 「何バカな事言ってんですか。ほんとにもう…。綾世さん」
 莉央がぐいと綾世の身体を抱き寄せると荒々しくキスした。
 「俺は今自分に苛立ってるんですよ!綾世さんに理不尽な事言ってしまいそうで自分を諌めてたんです」
 「…理不尽…?」
 「ええ!…なのに綾世さんは馬鹿な事言い出すし…。このまんまだと俺、綾世さん滅茶苦茶にしてしまいそうです…。俺の醜い嫉妬でね!」


 「……嫉妬?なんで?」
 「なんで~!?…それをあなたが言うんですか…」
 「だって…僕が好きなのは莉央なのに…莉央しかいらないのに」
 「分かってたって、あの男に腕つかまれてたり、何かされてたかと思えば腸が煮えくり返ってくるんです。何度アイツを殴ってやろうかと思ったか!」
 
 「……呆れて、ない…?嫌じゃない…か?」
 「何が?綾世さんをですか?…あのね…。さっき愛してます、と言ったばっかりですけど?」
 「…うん。でも莉央、見てもくれないから…」
 「あ~~~、もう!はい、俺が悪いです!綾世さん、じゃ、くっ付いててください」
 「…ん」
 莉央の腕が肩に回ってきて綾世は安心した。
 なんだ…違ったのか…。
 よかった…。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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