「イル・ビアンコ、不渡り出しましたよ…」
「……そうか」
閉店の時間に合わせて迎えに来た莉央がぽつりと言った。
綾世はそれにただ頷いた。
…なくなった、か…。
莉央は結局恥ずかしい事に毎日本当に迎えに店まで来ていた。
女でもないし、たった道ひとつなのに。
その道一つ真っ直ぐ帰ってこられなかった人が悪い、と莉央が言い張ったのだ。
クリスマスは目前。予約はいくらか復活し、22日23日分は一応一回り分は席が埋まった。それでも24日は貸切にした。従業員が楽しみにしていてくれるのが嬉しかった。
しかし、毎日迎えに来るようになった莉央にバイトの子達はいったいどう思っているのだろうか…?
別に綾世は隠す事も考えてないけれど、莉央が来るのか当然のように受け入れられているように見える。
莉央は綾世の店で働くパートにもバイトにも男女問わず人気だ。
平山さんだったのがいつの間にか皆莉央くんか莉央さんだ。
人当たりもいいし、色々な知識も豊富で店の営業時間が終わると自然に莉央の所に人が集まる。
何か莉央に相談事しているバイトの子もいる。
それを見るのが微笑ましくて綾世は自然に顔が綻んでしまう。
イル・ビアンコにいた時はバイトはバイト、みたいな雰囲気だったけれど、綾世の店ではバイト、パートがいなければ店は回らない。
本人達も分かっているからちゃんと責任を持って仕事をしてくれる。
全部がしっくりといっていた。
今は客足も遠のいているけれど、大丈夫、と何故か思えた。
イル・ビアンコにいた時はそれこそ広い店に入りきれない客が連日だったのにいつも焦燥感ばかりが浮かんでいた。
精神的なものかもしれないとも思う。
まるで根無し草のように感じられた自分自身だ。何かに追われているかのような毎日だった。
それが今はない。
お疲れ様でした、と帰るバイトに挨拶して送り出す莉央を見た。
正直、本当に自分が莉央といるのがいいのか、とは思う。
自分はいいけど、莉央が、だ。
幸せな結婚、家庭など作れないのにそれでいいのか、と。
自分は初めからそんな事無理なのは分かっている事だから綾世は莉央の傍にいられるのが幸せだ。けれど、莉央は望めばそれを手に入れる事が出来るのに…。
「綾世さん?どうかした?」
じっと莉央を睨むように見ていたら莉央が首を傾げて綾世を見た。
「いや。……僕達も帰ろうか?」
「はい。ホールもう一回見てきますね?」
莉央が確認にホールに行く。
何も言わなくても莉央は先駆けしてなんでも率先する。言葉も態度も。
だから綾世は不安を覚える事が少ない。
「オッケーっすよ」
電気を消して外に出ると寒さに綾世は首を竦めた。
その綾世を見て莉央が笑った。
「首が随分寒そうすね?」
「寒い」
「綾世さん肉もっとつけないと!さらに肌の色も白いからかいつも寒そうに見えますもん」
莉央が綾世の手を取って繋ぐとぴたりと身体を寄り添わせた。
「いくらか寒くない?」
「……ん」
夜遅い時間だから出来る事だ。
迎えに来るようになってから莉央は毎日これだ。
じっと綾世は自分より背の高い莉央を横から見上げる。
綾世を俺のもの、と言ってくれる人。ずっと一緒にいてくれる人。
温かさを教えてくれた人。
「ん?何?」
莉央が綾世の視線に気付いて顔を真っ直ぐ綾世に向ける。
「…なんでもない」
「………キスは帰ってからね?」
「別にそうじゃない!」
「なんだ?違うの?俺はしたいけど」
「したくないと、言ってるんでもない…」
かっと顔が熱くなる。
莉央はいつも平然としてこんな事ばかり言うんだ。
そしていつもくすくすと笑う。だから安心してしまうんだ。
「莉央…」
「はい?」
「…………なんでもない」
何気ない時間がこんなに幸せだなんて思える事が自分に訪れるなんて思ってもみなかった事だ。
そう言いたかったけれど恥かしくて口に出す事が出来ない。
莉央は惜しみなく言葉をくれるのに自分は全然出せていないと思う。
「俺幸せですよ?」
「ん……その…僕、もだ…」
そしてこうやって綾世が言いやすいように助け舟を出してくれる。
それに複雑になっているとくす、と莉央が笑った。
「伝わってますよ?だって綾世さんの顔がそう言ってますから」
「…言ってない」
「言ってます」
綾世の事など莉央はもうなんでも分かるらしい。
「…なんでそんなに分かる…?」
「分かってませんよ?俺がそう思っただけです。ほら、シンクロしてるから。綾世さんもそう思ってるのかなぁ?と思っただけです」
そして莉央はやっぱり優しい顔で笑った。
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