世の中がクリスマスのムードに包まれる中、22日と23日、24日の昼の分までの営業を終えた。
あとはもう夜の従業員と打ち上げで今年は終了。
綾世も気が楽になる。
莉央は22日は仕事が終わらないからと出社したけれどあとはずっと綾世の店で手伝い。
そして正式な営業を終えた今は夜の打ち上げの為の料理の準備まで手伝ってくれていた。
夜はお金を取るわけじゃないので莉央が手をだしても問題ない。莉央もそれをちゃんと分かっているんだ。
「綾世さん、明日から本当に休みですか?」
「うん。休む」
「……じゃ、明日の夜はどこかに食べに行きましょう」
「え?」
「だって綾世さんの誕生日ですから。…有給使って俺休みたいトコですよ!ホントは!でも年末近くてさすがにそれは無理です…」
はぁ、と莉央が大きく溜息を吐き出した。
「いいよ。そんな…」
「だめです!俺だけいっぱい貰って…。折角だから朝から出かけたい所ですけど……すみません…」
「いいって。それより、本当に夜出かけなくていいんだ。出かけないほうが嬉しい」
「はい?なんで?」
「だっていつも莉央が待ってくれているだろう?休みの日は一緒だし。だから…その、こんな機会ないから、莉央が仕事に行って帰ってくるのを待っていたいんだ。滅多に出来ない事だから。その方が僕は出かけるより嬉しい」
「……綾世さん…」
莉央が頭を抱え込んでしゃがみこんだ。
「莉央?」
「…だって綾世さんの誕生日ですよ?特別な日なのに」
「だから特別だろ?僕だけが休みなんてない事なのに莉央を待っていられるんだから」
「…なんつぅ……」
「?」
莉央がしゃがんだままなのでどうしたのか?とその前に綾世も屈みこんだ。
「莉央?ダメか?」
「ダメなわけないじゃないすか!」
莉央の顔を覗き込んだら莉央が顔を赤くしてた。
「可愛い事ばっかり言うんだから」
莉央がそう言いながら綾世を立たせると抱きしめた。
「可愛い?どこが?莉央がいつもしてくれる事なのに」
「俺はそうしたいからしてるだけです」
「僕もしてみたかったんだ。…莉央誰かに待ってて貰ってた事あるか?」
「実家出てからはないです」
「じゃあやっぱり出かけるよりそうしたい。莉央、休み28からだろう?出かけるのはそれからでいい。それまでの3日間は莉央の帰りを待ってるよ」
「……じゃあ明日ケーキ買って帰ります」
「………ん」
綾世は頷いた。
「……綾世さん…今、帰りたい…」
「は?」
綾世の耳元に莉央が囁いた。
「ダメだ」
「分かってますけど!だって綾世さんってば可愛い事ばっか言うんですもん!」
「……もう明日で29になるけど?」
「年は関係ないです。……仕方ないので夜まで待ちます」
莉央が苦笑しながら綾世を離した。
「皆早く帰ってくんねぇかなぁ?…無理かな…」
はぁ、と莉央が諦めたように呟く。
「もたない食材は全部使い切ってしまわなきゃいけないな」
「…ですね」
二人で作ってると厨房メインのバイト、パートの人が早めに出てきてくれて手伝いに入る。
ホールの係りの子達もきて、皆、連れてきた人達も手伝いながらテーブルを移動したりと大人数になっていた。
「杉浦くんの連れ、大きいね」
莉央も身長が高いけれどさらに10センチは大きい。
「バレーの選手なんです」
誇らしげに言う杉浦くんに綾世は可愛いなぁ、と思わず笑みが浮かんだ。
わやわやと厨房からもホールからも楽しげな声が聞こえてくる。
今まで従業員皆でこんな催しなんてした事がなかったけれど、これも店が小さくて従業員同士も仲がいいからできる事だ。
昼の部と夜の部でメンバーは違うけれど、話は弾むらしい。
笑い声が響いてくる。
昼のパートさんは家族連れ、夜のバイトの子は恋人や友達。
でも和気藹々とした雰囲気が伝わってくる。
「…綾世さん、嬉しそうね?」
「ん?ああ…楽しい、な」
「よかったです」
莉央も帰りたいなどと言っていたけど、いざ人が集まれば楽しそうだ。
バイトの子と話したりホールから呼ばれて行ったりとぱたぱたしている。
今年最後の店は楽しく終われそうだ。
「さ、人も全員集まったみたいだし、ピッチあげるぞ」
綾世が厨房に入ってる子達に声をかければ返事が返ってくる。
昼のパートさんと夜のバイトの子が皆揃っているので仕事も早い。
ホールでもグラスを用意したりと準備は整っていった。
テーマ : 自作BL小説
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