「よかったですね…」
嵐のような飲み会だった。
いや、未成年もいたから飲み会じゃないけど、ディナーコースでわりと皆いい格好できていたのに最後には酒を飲める大人は無礼講になっていた。
笑いが絶えなかった。
最後には従業員からと綾世に花束まで用意されてて驚いた。
来年は大入り袋をはずんでください、とも言われたけど。
片付けも皆で分担してあっという間に時は過ぎ去った。
こんなクリスマスは初めてだった。
綾世は笑いが漏れる。
「楽しかった…」
「うん」
莉央も笑顔だ。
綾世は貰った花束に顔を埋めた。
「こんなの貰ったのも初めてだ」
「花瓶なんかウチないっすよ?」
「…バケツ?」
「ちょっと…失礼ですよね…」
う~ん、と二人で顔を合わせればまた笑いが漏れる。
綾世はくるりと皆で掃除してすっかり綺麗になった厨房を見渡した。そしてホールに移動してまた眺める。
自分だけの店だ。
そしてディスプレイがされている棚を眺める。
あれもこれも莉央がしてくれたんだ。
自分だけではこうなっていなかっただろう。
こんなに従業員が仲がいいのも莉央がいるからだ。莉央は昼の人も夜の人も知っている。
変なの…。
莉央は本当はただの業者なはずだったのに。
こんな風になるなんて思ってもみなかった。
「……やっぱり、虹…のおかげ、かな?」
「うん?……初めて会った日の?」
「そう…」
「……綾世さん、帰りましょう?」
「ん……」
「ねぇ、明日…綾世さんはお休みだから、いっぱいしていい?」
「…だめだ」
「え!?なんで!?」
甘えたような口調で言う莉央を綾世が一蹴すると莉央はすぐに抗議の声をあげた。
「……朝起きて莉央の弁当作る」
莉央が目を大きく見開き綾世を見て、そしてぶっとふきだした。
「いいです~。無理でしょ。綾世さんいつも朝目開けてても起きてないですもん」
「…起きる」
「いいです。朝ゆっくり寝てていいから。いってらっしゃいを言ってもらえてキスくれればいいです。弁当は自分で作れるし、それより綾世さんの方が欲しい。だって今日はクリスマスイヴですよ?」
「………そうだけど…」
「ね。さ、帰りましょう」
「ん……」
莉央がホールの電気を消した。
「あ、莉央、ちょっと待って」
ストック部屋に綾世は入っていった。莉央のクリスマスプレゼントにとカフスボタンとタイピンのセットをまたネットで買っておいたのでそれをポケットにしまう。
「こっちも消していいぞ」
「うん。その前に…」
莉央が自分のコートのポケットから袋を取り出した。
「綾世さんにクリスマスプレゼントなんですけど、開けちゃいますね」
「?」
莉央が袋を開けるとマフラーだった。
それをくるくると綾世の首に巻いていく。
「綾世さん、いっつも寒そうだから。オッケーです、帰りましょ?」
「……ん」
肌触りが優しくて滑らかだ。
黒地に深い緑で大きくチェックが入っている。
外に出るといつも寒かった首筋がマフラーを巻かれてほっこりしている。
莉央が綾世の持っていた花束を取り上げて片手で持ち、空いた片手を綾世と繋ぐ。
「手袋も一緒にとも考えたけど、こっちの方がいいなと思ってやめました」
莉央がくす、と笑って繋いだ手を上げる。
繋がれた手から莉央の体温が伝わってくる。
「ん…首…も手も温かい…。莉央…ありがと」
「いいえ~」
莉央の声が上機嫌だ。
短い距離なのに、その間だけ寒かったのに、それさえも今は寒くない。
「…どれだけ……」
「ん?なんです?」
「どれだけ…莉央は僕を甘やかすつもりだ?」
ぷぷっと莉央が笑った。
「いくらでも。…よかった。こんなもん、って言われなくて」
「そんな事言うかっ」
自分の為に莉央が用意してくれたんだ。こんな嬉しい事ないのに。
そのままマンションに着いて、莉央がドアが閉まったのにすぐキスしようとしたのを綾世が止めた。
「え?ダメ?」
手で莉央の口を押さえている。
「ダメじゃなくて…」
綾世はポケットから小さい箱を取り出してはい、と莉央に渡した。
「…俺に?」
「ん…。だけど、僕は莉央が何をいいのか全然分からなくて……」
「開けていい?」
「ん」
「すまない…。なんか色気も何もなくて。仕事用ばっかだし…」
綾世が言い訳を並べる中、莉央が包みを開けて目を丸めた。
「…ありがとうございます。嬉しいですよ?仕事の時に身につけられる物嬉しいです。ネクタイも、仕事中でも見る度に綾世さん思い浮かべますから」
さらに増えた、と莉央が破顔しているのを見れば照れくさいながらも嬉しくなる。
「でも、これ高いでしょ!?」
「こんな、クリスマス、も初めてだし…僕が莉央にあげられるものは少ないから…」
どうしても言い訳をしてしまいたくなる綾世の口を莉央がそっと塞いだ。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学