莉央の肌と触れ合っているのが嬉しい。
繋がっているのも。
自分の恋人。自分だけの。
「いつもより感じてますね…?」
「いう、な……ぁっ!……」
「言いますよ。嬉しいですから。綾世さん、ココがいい、んですよね?」
「あ、あっ…」
莉央がぐっと腰を進めてくれば綾世の身体が反応する。
「いっぱい感じてください…。俺だけに…」
「あ、…莉央、だけ…だから……」
繰り返される抽送に綾世の肌が戦慄いて、声が漏れる。
なんでいつもこんなに充足感を感じるんだろう?
腕を莉央の首に絡ませ、キスをせがめば惜しみなく与えてくれる。
綾世の欲しい物を莉央はくれるのだ。
「僕は、莉央に、何を……あげればいい…?」
「綾世さん貰ってますから。綾世さんの全部俺のモンです」
「んっ!……いくらでも…」
こんなものでいいなら。
自分をあげて莉央が手に入るはらいくらでも。
「綾世さん…?誕生日おめでとうございます」
莉央の声とキスが降ってきた。
もう朝か…?
「ん…?」
「でもすみません、俺、行く時間なんですけど…大丈夫?」
「んん……?え…?」
莉央の伺う声にはっと目を開けた。
起きるはずだったのに…。
「いいです。寝てて。行ってきますね。誕生日おめでとうございます。帰ってきたらちゃんともう一度言いますね?多分まだ寝ぼけてるでしょう?」
「ん…ごめん……」
莉央からの軽いキス。
「…いってらっしゃい」
「行ってきます。今日は綾世さんからのネクタイとタイピンつけてますよ?」
朝の光の中で莉央が笑みを浮べていたのに照れくさくなってくる。
「ん…」
軽いキスを何度も交わし、莉央はやばい、とばたばたと出て行った。
それにくすくすと笑う。
毎朝と同じ。
でも今日は莉央を待っている事が出来る。
莉央の気配がなくなったあともベッドの中で綾世は幸せの余韻に浸った。
しばらく幸せ感を味わってから綾世がもそりと起き上がる。
風呂は事後に莉央が連れて行ってくれたからすっきりしてるけど、莉央がいなくたって何も着てないのは恥ずかしい。
莉央の部屋のクローゼットに普段着る分の綾世の着替えも置かれているようになっていた。
何処かしこに自分の居場所がある。
着替えをしてダイニングに行けばやっぱり綾世の分の朝食が用意されていて、いつもと違うのはお昼の分が弁当じゃなくて皿に用意されていた。
お昼の分です、とメモ紙が置かれている。
綾世が休みなんだから別にいいのに、でもそれだと綾世が食べない事も分かってるんだ。
掃除をしたり、洗濯ものを片付けたり、ゴミを纏めたりと、目が覚めた体を動かす。
体はちょっとだるい感じはするけれど、そんな事よりも精神的には嬉しくて仕方ない感じだった。
浮かれてるといっていい位だ。
花束は水を張ったバケツに入ってた。莉央が入れてくれたんだ。
花瓶でも買ってこようか?でもきっとこれ一回きりだからやっぱり無駄か?
色々考えるのが楽しい。
普段出来ない家の雑事を細々としているとあっと言う間に時間は過ぎていく。
莉央の用意してくれたお昼を食べて夜ご飯の用意の為に買い物にいこうかと上着を着たところで携帯が鳴った。
莉央かと思ったら違った。
出るのを逡巡したがそれを綾世は取った。
「……もしもし」
『……今お前の店の裏にいる。出てこられるか?』
「………今行く」
静かな柾之の声だった。
綾世は莉央に貰ったマフラーを首に巻いてマンションを出た。
莉央がいなくても温かい。そっと首に巻いた莉央に貰ったマフラーに手を触れた。
ゆっくり綾世が歩いていくと店の裏手に柾之が立っていた。
「…何?」
「いや……イル・ビアンコがなくなったよ」
「………聞いてる」
沈黙。でも柾之の顔はこの間までと違って落ち着いている様に見えた。
「…俺はお前が好きだった、んだろうか…?」
「…知らない」
莉央が言った事だ。柾之もあの後色々考えたのだろうか?
「僕は好意はあった。でもそれはあくまで友人としてのものでしかなかった」
「…そうか…」
一体柾之は何を言いに来たのか?
「もう一度、やり直してみるよ…」
「………お前と僕とはもう道が別れている。でも、そうだな…頑張って」
「ああ、……悪かった」
柾之がぽつりとそう言って静かに去って行った。謝る事も妥協する事も決して今までしなかったのに。
綾世はそっとマフラーを摩った。
綾世の歩く道の隣に莉央がいてくれると信じられる。
綾世はそこから離れて微笑を浮べながら莉央の晩御飯の用意の為にスーパーに向かった。
テーマ : BL小説
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