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熱視線 夜想曲~ノクターン~5

 「無…」
 「無理はなし!」
 また即却下。
 「金曜日な。学校まで迎え行くから」
 「ちょ…。だって…」
 「さ、飯の用意するぞ」
 怜さんがすたっと立ち上がる。
 「連絡入れたか?」
 「あ、まだ」
 明羅は携帯を取り出して家に連絡を入れた。
 怜も電話を変わってお預かりします、と木田にことわっていた。

 なんかごまかされた感じがする…。
 家では怜さんの所といえば文句はないらしい。
 明羅が二階堂 怜にずっと執心してたのは家の者は誰でも知っていたし、お母さんも怜をレッスンしてしっているから、それできっと何も言われないのだと思う。
 仲良くなれてよかったですね、とまで木田に言われていたのに明羅はどうも後ろめたい。
 仲良くって…。
 お友達にでもなったと思ってるのだろうか…?
 謎だ…。

 明日も学校はあるし普通の日なのに怜といられるのが嬉しい。
 何でもない時間だけど、それが嬉しくて…。
 意味もなく近づいてたくて…。
 ご飯を食べてシャワーもして、怜さんはベッドで横になって本を読んでた。
 明羅も本当はパソコンをいじりたくもあったけど、怜から貰った言葉が嬉しいし、今日は離れたくない。
 「お邪魔します…」
 そろりとベッドに乗って、どうしようかな、とちょっと悩む。
 くっ付いてもいいだろうか?
 じっと本を読んでる怜さんを見てたら怜さんが嘆息して視線を明羅に向けた。
 見てたのが分かっていたらしい。
 座ってた明羅の身体を後ろから抱き寄せ、そのまままた本を読み始める。
 ただの小説らしい。
 明羅は一緒になって字を追ったけど始めを読んでないから意味が通じない。
 そういえばリビングの本棚はすごく大きくて楽譜や音楽関係の本も多いけどその他にも本が並んでいた。
 「ね、怜さんて…」
 「黙ってろ。話すな。今日は俺は我慢しなきゃないんだから」
 ええと…。
 明羅は顔がちょっと熱くなったけど、大人しく黙った。
 我慢って…。
 考えない、考えない。
 じっとして動かないようにする。動くのはページを捲る怜の手だけだ。
 動く度に大きな手を見つめ、そして字を追う。
 昨日は怜の事が気になってあまり眠れず、本の字を追っているうちに明羅は自然と意識が朦朧としてきた。
 寝ちゃう…。
 怜さんがいるのにもったいない。
 そう思いながらも眠気に勝てず明羅は目を閉じていた。


 「明羅」
 安心してぐっすりと眠っていたみたいで、身体を揺すられてはっと起きた。
 すでに部屋は明るい日差しが差し込んでいた。朝になっていたらしい。 もったいない。 
 「あ、おはよ…」 
 「おはよ」
 怜さんが軽くキスしてくれたのに思わずうろたえた。
 「送って行ってやるから」
 「え?あ、いいよ…。電車で行く」
 「いいから、まず起きろ。飯」
 「あ、はいっ」
 明羅は急かされて起きだした。
 
 「……あの、怜さん………コレ」
 どんとテーブルに置かれているのは…。
 「弁当」
 「そ、んな…学食でも行くからよかったのに」
 「餌付けしとこうと思って。お前痩せすぎだし」
 「餌付け……怜さんのご飯いつもすごくおいしいから。もうされてるよ」
 くっと怜が笑った。
 「それはよかった」
 「………どうしよう…。ありがとう…」
 早起きして作ってくれたんだ。まさかそんな事してくれるとは思ってもなくて申し訳なくなる。
 「おう」
 なんか嬉しくて心が苦しい。
 親にだって作ってもらった事などないのに。いつも用意してくれるのは住み込みの家政婦さんだ。
 怜のはまっさらの好意でしかないのだ。
 「あ、でも今週あと金曜まで来ないよ?」
 「え?なんで?」
 怜が複雑な表情をした。
 「だって!練習しないと!ジュ・トゥ・ヴ!」
 明羅が言えば怜が破顔した。
 「弾いてくれるんだ?」
 「だって、…だから、練習…」
 「練習そんなするほどの曲じゃないだろう?早弾きもないし、手が大きければ小学生だって弾ける」
 「…そうだけど…でもする」
 怜に下手な曲聴かせられない。
 「そっか…じゃ、大人しく金曜まで待つさ」
 怜さんがくすくすと笑ってる。
 う~、それだけで緊張しちゃう。
 「……下手でも笑わないでよ?」
 「笑うかっ!何ばかな心配してるんだか。ほら、着替えて。出るぞ」
 「あ、うん」
 明羅は皿を片付け、着替えをして怜の作ってくれた弁当を大事にしまった。
 「……ありがとう。本当に嬉しい」
 「どういたしまして」
 怜がくしゃりと明羅の頭を撫でた。
 
 

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