莉央がつけてくれたプレゼントのペンダントが動く度に音をたてる。
綾世がきゅっとそれに手を伸ばして握って確かめると、その綾世をテーブルの向かいで莉央が見て優しく笑っているのに恥かしくなる。
さっきから何回もそれを繰り返しているのがまた恥ずかしいけれど、嬉しいんだから仕方ない。
普段通りの食事にケーキが並んでいるのがなんとなくちぐはぐな気がするけれど気にもならない。
全部が綾世にとって初めてで嬉しい事だらけだ。
「莉央といるようになってから変わった、と思う…」
「うん?綾世さんが、ですか?…あ、これも美味い」
莉央が料理をパクつきながら顔を幸せそうに緩めるのを見れば心が温かくなってくる。
「ああ…全部が…変わった」
「全部?」
莉央が綾世の方に視線を向ける。
「ん…前は楽しいとか、嬉しいとかあんまり感じた事なかった。どうやって逃げようとか、疲れたとかマイナスな事ばかり…。それが今全然ないんだ。嬉しい、温かい、ばっかりだ…」
莉央がくすりと嬉しそうに笑った。
「ホントですか?」
「ああ。だから…それが全部、莉央が僕に与えてくれている事なんだ…」
「俺…が?」
「そう」
綾世がこくりと頷いた。
「莉央と会うまでは店だって不安でいっぱいで全然余裕なんかなくて…」
「ああ、随分と無理する人だなぁ、って思ってましたもん。今にも倒れそうな位に見えたし」
「ん…あのままだったらそうだったかもしれない」
「今はね、表情も明るくなったし、顔色も良くなったし」
「それも全部莉央のおかげだ」
「まぁ、餌付けはお互い様ですかね?俺は綾世さんの料理に惚れちゃってるし。綾世さんは一応俺のは食えるみたいだし?」
「莉央の料理はおいしいよ」
誉めあってるのがおかしくて二人で笑い合う。
「とにかく、そういうわけだから!」
綾世は照れくさくなって強制的に会話を終わらせる。
「綾世さん…俺、正月に実家に顔出しに行くんですけど」
「……ん?うん、行ってきていいよ?」
「一緒に行きましょう?いつも俺、日帰りなんで。ルームシェアしてる人がいるってのは言ってあるから。彼女と住もうと思ったけどフラれてしばらく彼女はいらないって言ってあるし、暮らすのきつくてルームシェアしてもらってる人いて、一緒に連れてくって言ってあるし。勝手に連れてくことにしてすみませんけど…。綾世さんに俺の育ったトコ教えてあげますよ」
「……でも……」
「嫌ですか…?」
綾世は首を振った。
「嫌じゃない…」
「車で4時間位です。帰りは途中でホテルにでも泊まりましょうか?そしたらゆっくり出来るし。…うん。そうしましょう?綾世さんの誕生日、ホントは今日なのに全然何も出来なくて…そのかわりに、ね?……虹は出ないか……今日一緒に出かけてたら虹出たかなぁ?」
「まさか!」
綾世がくすっと笑う。
「僕だってそこまで頻繁に見てないのに」
「ええ?そうですか?」
「そうだよ」
「………ねぇ、綾世さんはゲッコウって知ってます?」
「げっこう…?月の光のじゃなくて?」
「違います。月の虹で月虹。いつか一緒にハワイに行きましょう?そこにその月虹がよく見られるスポットがあるらしいんです。月虹見た人は幸せになれるって言われているらしいですよ?夜に出る、月の光によって出る虹。滅多に見られないらしいですけど、綾世さんと一緒だったらきっと見られそうな気がします。なんて言ったって綾世さん虹に愛されてるから」
「……見てみたいな…」
莉央が優しい笑みを浮べて頷いている。
虹の指し示してくれた人だ。
あの時虹が出なかったらこうしていなかったかもしれない。
「綾世さん」
莉央が席を立って移動してきた。
「これからも一緒に虹見ましょうね?」
「ん…」
莉央がそっとキスを落としてくるのを受け止めると、首でペンダントがしゃらりと音を鳴らした。
テーマ : 自作BL小説
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