「本当にいいのかな…?」
その日、流れを見るためにと宗について瑞希も一緒に行動し、分からない事などを皆に聞きながら宗の会社で一日を過ごした。
宗の側近とは皆見知っているのでそれは心強い。
「いいに決まってる」
宗の仕事の終わり時間と合わせて一緒に帰って来た。
車は宗の車で運転は瑞希。
宗が自分で運転すると言ったけど瑞希が外では宗が社長で自分が部下になるのにそれはダメだ、と却下した。
宗は引き下がったけど乗り込んだのは助手席。
後部座席にと言ったけれどそれは頑として宗は受け付けなかった。
「……俺が宗の…恋人…だから…、かな…?」
「違う。CIOに関してそこは関係ない。お前が仕事出来るからだ。ただ秘書の部分には多大に関係してるだろうけど。皆公私混同する奴らじゃない」
宗の言葉に瑞希はほっと息を吐き出した。
そして隣にいる宗を伺う様に見てはにかんだ。
「…なんだ?」
「ううん…嬉しいな、と思って。やっと宗と一緒にできるんだ…」
一緒に、とはずっと言われていたけれどなかなか宗から声がかからないのに気を揉んでいた。
自分は仕事でいらないと思われているのではないかと最近では思うようになっていた所だった。
瑞希よりも4つも年は下だけどやっぱり宗はずっと瑞希を引っ張ってくれる。まだ高校生の時でさえ大人っぽかったのにここ最近はさらに会社のトップとしての威厳も備わってきたと思う。
お父さんが瑞希の会社の社長であの威厳とカリスマ。きっと宗も生まれながらに備え持っているんだろう。
自分なんかとは違う選ばれた人だ。
出会ったばっかりの時はまだ高校生だったのに…。
まぁその時だって高校生には見えなかったけれど。
今は髪を上げて前髪を少しだけ垂らしている。髪を全部下ろすと若く見られるから、と。
きりとした目も高い鼻も全部がかっこいい。そしてさらに最近は大人の魅力に満ちてきていると信号で止まった時にじっと宗を見た。
「…何?」
「……ううん」
かっこいいな、といつでも瑞希は宗に見惚れる。
そしてこんな人が自分のような素性も分からないのと一緒にいていいのかな、とも思ってしまう。
宇多 瑞希として28年過ごしたけれど、宇多という苗字だって本当のものじゃないんだ。
自分は誰?
戸籍上だって宇多 瑞希になっているけれどいつでも自分はどこか身体が宙に浮いている気がする。
大地にどっしりと構えていられない。
親に捨てられた自分。本当の名前もない自分。
次はいつ世界にいらないと放り出されてしまうんだろう?
漠然とした不安感がいつでも瑞希の中にあった。
それを全部受け止めてくれたのは宗だけだ。
空中に漂っている瑞希を大地にしっかりと両足をつけた宗が捕まえていてくれている。
そう感じてしまう。
宗がいなかったらきっとどこかに流されて消えてしまいそうだ。
「宗……かっこいいな、って思っただけ…」
「…瑞希」
「あ!だ、ダメ」
宗が腕を伸ばして瑞希の顔に手をかけると頬にキスしてくる。
「誰見てるか分からないのにダメでしょう!」
「見てない」
「いい!?絶対ダメ!」
宗が眉間に深い皺を刻んで難しい顔をした。
「…どうしたの?」
「いや…俺はしくじったかなと…」
「何が?」
「これから常に瑞希が隣にいるんだろ?…さすがにいつでもキスだなんだと出来ないしな、と思って。どうしたらいい?」
「………我慢」
「…………瑞希はしたくなんないか?」
「我慢できる」
「俺は出来ない」
「するの!」
本当は宗がしたい時にすればいいんだ。瑞希の全部は宗だけのものだから…。
でもそれで宗が誰かに何か言われるような事があったら宗には傷しかつかない。
自分はいい。でも宗は選ばれた人なんだから傷なんか作っちゃいけない。
「お願い……宗……」
瑞希は顔を歪めながら俯いた。
「……そんな真剣に悩むな。ばか…。俺だって、一応は!TPO弁えるさ。…我慢できれば、な」
くくっと宗が笑う。
未だに宗は瑞希を欲しいと言ってくれる。
求めてくれる。
それがどんなに嬉しいかなんてきっと宗は分かっていないだろう。
瑞希の全部は宗だけだ。
本当は全部どうでもいい。
ただ宗だけが欲しい。
いつだって。
宗の手が宥めるように瑞希の足を摩ってくる。
「そ、宗…危ないから!」
ただ足をさすっているだけならいいけど、その手を際どい所まで伸ばしてくるのに動揺する。
「ん~…触りたい」
「ダメ!危ない!車ぶつかったらどうするの!?」
「……瑞希が怪我するのは嫌だからヤメとく。…帰ったらな?」
瑞希は顔を紅潮させ頷いた。
帰ればそこは二人だけだ。いくらでもなにされても宗にならいい。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学