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2012.08.28(火)
駅まででいいと言ったのに結局怜は学校まで送ってくれて、校門からちょっと離れた所に車を停めた。
ちょっと離れても周りに生徒は多数だ。
「怜さん、ありがとう」
車を降りて運転席の方にまわって礼を言う。
「いや………あのさ、お前有名人?」
「は?」
「いや、周りが随分お前を見てるなぁ、と思って」
え?と明羅が周りを見回すと確かにちらちらと視線が向いていた。
「…多分、宗のせい、かも…」
ああ、と怜も納得した。
「しかし、ちょっと面白くないな」
「何が?」
「なんで宗は呼び捨て?」
「な、んでって…」
そこにそんな突込みがくるとは思いもしなかった。
「二階堂、は怜さんだから…。怜さん、年、上だし…。怜さんが宗、って言うから…かな…」
怜が肩を竦めた。
「ま、いいや。じゃあな。いってらっしゃい。チューでもしてやりたい所だが、さすがにマズイだろ」
「ちゅ……れ、怜さんっ」
かっと明羅が真っ赤になって小さく声をあげると怜が笑いながら手を振って車を発車させ、去ってった。
もう。一人で動揺して顔が真っ赤になっているのが恥かしい。
明羅はそそくさと学校に向かった。
「桐生」
クラスメートが声をかけてきた。わりと話すほうのやつだった。
「なぁ、聞いていい?本命って二階堂?それともオトナな人?昨日お泊りコースならオトナな人のほうか…?送ってくれる位だもんな」
「な…」
明羅は絶句した。そして慌てて口を開く。
「お、おかしいだろ」
「え?何が?」
クラスメートはおかしいとは思っていないらしい。
そして明羅はクラス中が聞き耳を立てているのに気付いて一瞬我を失ったのを取り戻した。
「…邪推しすぎ」
だが勿論詳しく教える義理もなく一言で終わらせる。
「…そうなの?なんだ…」
もうそれ以上何も言う気も起きなくて明羅は脱力した。
本命、って…。
表面上は見えないように気をつけながらも、内心は焦りまくっていた。
しかし、そろりと周りの様子を確かめてみれば、ほとんどの人が明羅と怜の事を見ていたか聞いたかしたらしい。ちらちらと視線を感じる。
なんて暇なんだ、と思わず頭を抱えたくなった。
お昼、どきどきしながら弁当の蓋を開けた。
マメな怜さんは余ったおかずとか冷凍してそれを別な料理にしたりもする。
柔軟な発想が出来るから音も深いのだろうか?
明羅も料理を覚えたら少しはましな演奏が出来るだろうか、と思ってしまった。
…………。
色とりどりのおかずにどれだけ早起きしたのかと思わず顔を俯けた。
…写メしとこ。
携帯を取り出して食べる前にそれを写真に撮った。
そして割り箸で少しずつ味わいながら食べていく。
もう慣れた味。
やっぱり今日も怜さんの家に行きたい、と思わず思ってしまう。
そしてダメだ、と一人で小さく頭を振った。
だって本当に真面目に練習しないと聴かせられない。
怜さんの家で練習は出来ない。
明羅は味わって食べて、すぐに携帯を取り出した。
怜にありがとう、とお礼と美味しかった、嬉しかったとメールする。
あとで電話するね。
とも付け加えた。
そしたら大見得切って電話していいよね?
ちょっとして怜からメールが返って来た。
怜さんからの初メールだ!
了解。
…それだけ。
怜らしくて明羅は思わずぷっと笑ってしまった。
メールは滅多にしないと言った怜さんの貴重なメールだ。
ついでにブログを見てみればやはり更新はなし。
明羅に向けた記事は削除した。
怜は名前を出しているし勘繰られるのは歓迎出来ないから。
明羅はあれを取っておきたかったけど仕方ない。
なのでブログはまた元通りだ。
でも今度はCDも出すし、コンサートもするっていったから更新するかも。
いや、しないと!
録音に行って来たとかだって載せられるわけで。
…するかな?
ちょっと疑念が浮かんでしまった。
学校が終わるとまた宗が出た。
「昨日は兄貴のとこに泊まったのか?」
「そうだけど?」
怜さんが肯定しとけ、って言ってたけど…。
「今日は行かない…?」
「行かない」
明羅はホームで電車が来るのを待つ。
一緒に宗が並んでいて、電車が来るとやはり一緒に乗り込んできた。
「…恋人?」
小さく宗がまた尋ねてきた。
「…ん」
本当に言っていい、のかな…?
「…のわりに平気そうだな。身体しんどくないのか?」
「…………は?何が?」
「………あ、まだなんだ?」
くっと宗が笑った。