【宗視点】
金曜日。
今日で瑞希は親父の会社を退社。
そして週明け、10月からは宗と一緒の会社だ。
車を瑞希がいるはずの居酒屋の脇に停めてメールで着いたと入れておく。
シートを倒して寛いでいるとメールが返ってきた。
清水と同期の斉藤と岩国にこの後もと誘われて、もしよければ宗も一緒にと言ってるんだけど…と困惑しているような文面の瑞希からのメールだった。
宗としたらさっさと帰りたいという所だが、瑞希の今までの会話でもこのメンバーが宗との事も知っているから特別だった事は知っている。
俺は構わない、と送ると、じゃあ一緒に!と返ってきた。
車を駐車場に入れてくるから外に出たら連絡して、とメールして宗は車を移動させた。
近くの駐車場に車を停めて降りた所に、店出たよ、と瑞希からメールが来た。
今行く、と返して颯爽と宗は店の方に向かって行った。
「すみません」
4人が店の前に立っていたのに宗が悠然と姿を見せると瑞希がぱっと華やかな笑みを見せた。
…やっぱ可愛い。
基本綺麗なんだけど、宗にだけはどこか幼い表情を見せる。それだけ自分に甘えているんだと思えればどうしたって嬉しいし特別だ。
抱きしめたい、と思ったけれど我慢。
清水と岩国はほう、という表情で斉藤は面白くなさそうな顔。
まだ瑞希を諦めきれていないのか?
残念だが瑞希のすべてはもう宗のモノだ。
ふん、と斉藤に向かって鼻を鳴らしそっと瑞希の脇に立つ。
「さすが若社長様だなぁ…風格も感じられるねぇ」
清水がのんびりと宗を見て呟く。のんびりしている印象があるけれど清水はかなりできるのは知っている。だからこそ親父の会社でも評価されてるんだ。
「どうも」
軽く頭を下げる。
瑞希を見ると頬が紅潮して目がとろんとしている。
「……瑞希…酔ってるのか…?」
「酔ってないよぉ?」
宗は頭を抱えた。こんな瑞希が出来上がっているならさっさと帰るべきだった。いつも瑞希は酔うほど酒を飲む事がないので安心していたのだが。
「皆に次々注がれてさすがに断りきれなくて…」
清水が苦笑していた。
「宗…」
瑞希が甘えるように宗の腕に腕を絡ませ抱きついてくる。
素面で人前なら絶対しないだろう。
だが宗にしたら大歓迎だ。
「あらら……」
岩国と清水が苦笑し、斉藤はやっぱり面白くなさそう。
「ま、若社長がついてるなら宇多くんがこれでもいいでしょう?」
「……そうですね」
宗が瑞希を見ながら頷くと清水がくすと笑った。
「まだらぶらぶなのね」
それに宗は照れもせず肩を竦める。
「さて、何処行く?」
清水が一同を見て宗に声をかける。
「…居酒屋みたいなところがいいですか?それとも落ち着けるような所?」
「…落ち着ける方が宇多くんはよさそうじゃないかな…?」
すっかり宗に身体を預けるような感じになっていた。
「…メールの文面は普通だと思ったんだが…」
「…君の顔見て気が抜けたんでしょ」
清水の呆れたような言葉にそうか、と宗はくすと笑みを浮べた。
「…近くに個室に区切られて落ち着いて飲めるところがあります。そこにしますか?」
「…任せるよ」
3人が顔を合わせて宗に頷いた。
「宗…?」
「はいはい」
瑞希の身体を抱えるようにして宗が歩き出した。酔っ払いだと人は見るだろうからいいだろう。
「さすが一般人と来るトコ違うなぁ」
清水と岩国は感心したように宗の案内した店を見渡し、斉藤はずっと面白くなさそうな顔。
でも宗にとってはどうでもいい。瑞希はコイツなど目に入っていないのだから。あとは宗が気をつけていればよかった事で、それも今日で終わる。あとはもう瑞希を自分の傍から離す気などないのだから。
「何飲みますか?…瑞希はだめだな…」
「え?俺もなんか飲む」
「ダメ。酔い冷めてからならいいけど。お前はウーロン茶とかにしとけ」
ずっと瑞希は宗の腕に抱きついたまま離れない。
「とりあえずはビールかな。ここカクテルが有名なとこだろう?あと何か頼もう」
さすがに清水は分かっているらしい。岩国と斉藤は雰囲気に飲まれていてきょろきょろと落ち着かない。
ビールで乾杯とグラスを鳴らしたあと岩国が口を開く。
「会社どうなの?」
確か清水と岩国は同期なはず。すると宗よりも大分年上だ。
「やっとどうにかまわって来た、という所ですかね」
「謙遜だな」
清水が笑う。斉藤はずっと宗にしなだれる瑞希を見て、宗を計るように見る、を繰り返している。
ちゃんとコイツの顔を見たのは瑞希と一緒にマンションに住み始めた頃のいつぞやの居酒屋以来だ。あとはいつも宗は瑞希を迎えに行くだけだったからこうして向き合うのは初めてといっていい。
でも瑞希から常に話は聞いていたのでどうもそんな気はしないのだが。
テーマ : 自作BL小説
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