一つの会社を回る毎にここはいい、だめと宗が呟いている。
「何がよくて何がダメなんです?」
「ああ?瑞希が一人で行っていいとこ悪いとこ、だ」
「は?」
瑞希は運転しながら助手席に座る宗を見る。
本当は助手席だって宗は座るべきじゃないんだけどなぁ、と思いながら。
「瑞希を嘗め回すように見る奴がいる所はダメ。必ず俺か坂下と一緒。いいな」
「……あのね。それじゃ仕事にならないでしょ」
「ダメだ」
はぁ、と瑞希は深い溜息を漏らした。
「……俺、かえって宗…あ!違う。CEOの邪魔しているような気がしてきましたけど」
「何を言ってる?俺はこうして確認できるから安心だ」
当然の様に言い切る宗に瑞希は頭を抱え込みたくなった。
「本当にきてよかったかな……」
小さく呟いた。坂下はどう思っているのだろう?
出て来る前によろしくお願いしますね、と切実に訴えられたけど。
そして回るところが増えてくるとますます宗の眉間の皺が深くなっていく。
口数も減ってかなり強面になっている。
夕方までかかって挨拶回りをして会社に帰ってくると宗は坂下さんを呼んで会議室に籠もってしまった。
なんかいけないとこでもあったかな、と瑞希は不安になる。
「首尾はどうでしたか?」
話しかけてきたのはやっぱり宗が大学で目をつけた土屋くんだ。
「うん。俺の事知っている人は驚いてたけど、宗…っとCEOが社長の息子だって皆ほとんど知っているから」
「ああ…」
土屋くんが苦笑する。
宗より2つ上なはず。IQが高いって聞いたけど。
「ま、それも彼はバネにできるから」
「…そうだね」
ちゃんとここの人達は宗の事も分かっている。だからこそ宗についてきているんだ。
そしてお父さんとの微妙な感じも感じ取っているんだろう。
「それより宇多さん大丈夫?」
「何が?」
「いやぁ…ん~…」
困ったように土屋くんが頭をかいている。
「そんなに綺麗だと、お誘い、とかってやっぱあるんすか?」
「ん?ああ…あるよ」
瑞希はけろりと答えた。
「え!?」
質問した土屋くんが驚いている。
「君から質問してきたのに」
ぷっと瑞希が笑った。
「あるよ。取引するから付き合えとか、平気で言ってくる奴もいる。稀にだけどね」
「え、ええ!!」
周りの人達も瑞希を見ていた。
「宇多さん、マジで!?」
恵理子が食いついてくる。
「ええ」
うわ~~~、という皆の顔に瑞希は首を捻る。
「どうか?」
「……それで今まで無事なんだ?」
「一応。何もないね」
「お願いだから二階堂くんか坂下さんと一緒に行動してね」
「は?」
うん、と皆が頷くのに瑞希はまるきり宗と同じ事を言われて怪訝になった。
「……確かにねぇ…」
じっとりと恵理子が瑞希を見ている。
「女より色気あるってどうよ?」
土屋くんに向かって恵理子が言えば土屋くんはあははと渇いた笑いを漏らしてた。
「確かに」
「ソコ納得すんな!宇多くん、二階堂くんと一緒でよかったねぇ。絶対元の会社だったら危なかったかも」
「……何が?」
はぁ、と恵理子が頭を抱える。
「分かってるんだか、分かってないんだか……」
「?」
一応自分では分かっているつもりだけど。
そういう対象で見られるって事だよな?
今までだってなかったわけじゃない。
それでなんで皆が頭を抱え込みたくなるのかが分からない。
ずっとちゃんと一人で切り抜けてきたけど…。
ちょうど宗もいないし聞いてみてもいいだろうか?
「俺、来て迷惑じゃないですか?」
「全然!大歓迎!二階堂君の操縦お願いね」
操縦…………。
瑞希が絶句する。
「二階堂君がかなり出来るのは皆分かってる。そこは誰も真似できない。だから社長として、CEOとして尊敬出来る。ただね、二階堂君自身が止められない時ってのがたま~にあるんだよね。もう誰が何言っても聞こえない。まぁ若いから仕方ないけど」
同じ年であるはずの恵理子が達観したように腕組して頷きながら言っているのに瑞希は苦笑する。
「だから…」
「ほう……だから?」
「げ!」
宗が恵理子のすぐ後ろに立っていた。
「なんでもありません~~~」
わたわたと皆が席に戻る。
「ここの会社は随分暇らしいな。じゃあ俺は帰る。瑞希、帰るぞ」
「え?」
「今日は挨拶回りで疲れただろう?明日も続くけどな」
やれやれと宗が溜息を吐き出す。
「じゃあ、お疲れ。お先」
「お疲れ様でした」
宗が有無を言わせず瑞希の腕を引っ張ってフロアを出て行く。
「い、いいの?」
「いいんだ。今週はまず挨拶回りがお前の仕事だ。それにあそこには俺がいない方仕事がはかどるから」
くくっと宗が笑っているのに瑞希は安心した。
テーマ : 自作BL小説
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