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熱抱擁 angoscia~不安~3

 「ねぇ、宗…」
 「うん?」
 「俺……仕事の邪魔じゃない?」
 「は?ないけど?どこが?」
 「だって…一人で行動ダメってなくない?俺、今までだって平気だったけど…」
 帰りの車の中で瑞希が運転しながら宗に聞いた。
 「これからはダメ」
 「……なんか、他の皆にも頷かれたんだけど…。俺、そんなダメ…?」

 「あのな、仕事がダメなんじゃないだろ。お前が危ないからダメって言ってるんだ」
 「別に危なくないけど」
 「いや、危ない。…………瑞希はこんな事言われるの嫌か?」
 「え?」
 「こんな行動を限定されるような、と…俺に囚われているような感じ……に思う、か?」
 「ううん。俺が迷惑じゃないなら、仕事が出来ないって思っていないなら、俺はかえって嬉しい位だけど?」
 瑞希ははにかんだ。
 「だって、それ位宗が俺の事心配してるって事でしょ?」

 「瑞希!」
 「うわ!宗、危ないってば!」
 宗が瑞希の頭を抱き寄せようとした。
 「悪い悪い。……ああ、心配だよ。どうしようもない位な。いっそのことお前が仕事できなけりゃよかったのに!そうしたらずっと大事に閉じ込めて置くのにな」
 「俺はそれでもいいけど」

 「嘘ばっかり。お前はそれじゃ満足できないだろ。今だって全然なんでも自分で頑張ろうとして俺になんか頼ってこないくせに」
 「…そんな事ないよ。……俺が頑張れるのはいつでも宗が後ろにいてくれるからだから」
 「…くそ……ホントお前可愛すぎ。………だから俺を操縦なんて言われるんだよ」
 あ、聞いてたんだ…。
 ぷっと瑞希は笑ってしまう。 
 

 宗にだったら縛り付けられるのもなんだっていいんだ。それ位自分を欲してもらってると思えるほうが嬉しい。
 何も気にしてもらえないようになったらもう瑞希には興味がなくなっていらないって事だから、執着してもらえる方が瑞希にとっては嬉しい事に感じてしまう。
 自分をこんなに見てくれるのは必要としてくれるのは宗しかいない。

 宗は見てくれじゃない、瑞希の全部を知って、分かって、そして傍にいる事を許してくれている。
 瑞希の未だなくならない心の傷も全部知っててもそれでも、だ。
 いつでも心の奥底にある不安感はなくならない。
 いつ宗に要らないといわれるか身構えている。
 瑞希には何もないから…。
 どこの誰かも本当は分からないんだ。そんな自分なのに…。
 じっと宗が瑞希を見ていた。

 「何?」
 「う~ん……色々考えてた。瑞希がそんなに美人ならきっと親だって美人だろうな、とか。……探す、か?金使えば探せない事ないと思うけど…」
 瑞希は静かに首を振った。
 「いいよ…。そんなのにお金使わないで。いらなくて捨てられたのに今更探して、もし見つかっても今更あなたの子供ですってもし俺が出ていったって相手の迷惑にしかならないでしょ」

 「瑞希…」 
 信号で車が止まると宗が瑞希の頭をそっと抱きしめてくれる。
 「どんな事があったって俺だけはお前を離してやらないから」
 「……どんな事があっても?」
 「ああ。言っただろう?俺の会社に入ったらもうずっと瑞希のこれから先は全部俺のものだ」
 「……うん」
 嬉しい…。
 たとえこれが今だけの口約束だとしても瑞希には十分だ。

 「俺…宗だけ、なんだ。今までも、そして、きっとこれからもずっと…」
 「ああ。それでいい」
 信号が青に変わって宗がそっと瑞希を離した。

 自分はおかしいと瑞希は思う。
 はっきり言えば宗以外の事などどうでもいいんだ。
 仕事で誉められるのも認められるのも勿論嬉しい。
 でも心の中の空洞はそれでは埋まらない。いつでも空洞に水が流れても満たされることなくずっと漏れている。
 そこを埋めてくれるのは宗だけ。

 でもやっぱり宗でも溢れる位に溜まる事は出来ない。
 いつでも流れ出している。
 瑞希の心には大きな大きな穴が空いているんだ。
 それはきっと埋まる事なんてない。
 そしていつも感じる浮遊感。

 自分は誰?
 瑞希と呼んでくれ、掴まえていてくれるのは宗だけ。
 宗に離されたらきっとどこかに飛んでいってしまう。

 学生の頃より弱くなってしまった、と思う。
 高校も大学も自分でどうにかしないとと必死だった。
 必死に一人で地面に這いつくばってしがみついていた。
 もがいて、足掻いて…。
 それを宗が隣に立って瑞希を立たせて宗にしがみつかせてくれているんだ。
 いつでも瑞希を抱きしめて捕まえていてくれている。
 そっと宗を見ると視線が合った。
 「何だ?」
 「ううん」
 瑞希は笑みを浮べて静かに首を横に振った。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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