「ね、俺って天然なの?」
帰りの車に乗って宗に聞いたら宗が思い切りふきだした。
思わず瑞希はむっとしてしまう。
「…正しくは違うな」
「正しくは…?」
「そう。瑞希は他人に対してしたたかな所もあるし、計算して作っている部分もあるから天然と違うだろ」
そういえば宗の前でだけはいつの間にか作った所がなくなっている、と瑞希は今更ながら気付いた。
だから気も抜けるんだ。
安心しきっているから。
「でもさっき誰も否定しないし」
「なんだ?気にしてるのか?」
くくっと宗が笑う。
「気にしてるんじゃないけど…」
誉め言葉ではない…と思う。
瑞希には常にコンプレックスが付き纏う。どうしても施設育ちで親もいないという劣等感から人からどう思われるか、見えるか、が気になってしまう。
「気にしなくていい。人がどう思おうが瑞希は毅然と顔を上げとけ」
「………」
瑞希がどう感じたか宗は分かってる…?
そして顔を上げろと言われた言葉に宗のお父さんにも言われたと思い出した。
くす、と笑みが漏れる。
「ん?」
「宗のお父さんにも顔を上げなさい、って言われたよ。……退社する時、お父さんに社長室に呼ばれたって言ったでしょ?そん時。俺、宗に釣り合わないって言われるかと思って…そしたら顔を上げなさいって」
それが嬉しかった。
「……釣り合わないって…」
宗がじろりと瑞希を軽く睨む。
「まだそんな事言ってるのか?誰がどう思おうが関係ないだろう?」
宗はいつも自信に溢れ、そう言ってくれるけれどやっぱり瑞希はどうしたって考えてしまう。
ただでさえ普通は男で、というだけでも宗の隣に立つなんて許されない事だろうに、さらに素性も分からないのだ。それでも宗の側近の人達は瑞希を受け入れてくれているし、お父さんも顔を上げなさいと言ってくれる。
それがどんなに恵まれているか…。
瑞希はそう思うといつでも涙腺が壊れたように涙が潤んできそうになってしまう。
どうしたって自分なんかが隣にいていいはずないのに、こうして宗の腕はずっと瑞希を抱きしめていてくれるのだから。
「瑞希…」
「うん、何…?」
車を静かに宗と一緒に住んでいるマンションに向かわせる。宗が隣にいるのが嬉しい。やっと会社でも一緒だ。ずっとこのまま雁字搦めにして自分を捕らえてて欲しい。
「もう6年だ。いやでもまだ6年だともいえるけど…。……釣り合わない、って事はないだろう…?初めの頃にもそんな事言っていたが…瑞希はまだそう思うのか?」
「……思ってるよ。ずっと思ってる」
「………どうしたらそれはなくなるんだろう、な……」
宗が小さく呟くのにはっとして瑞希が隣を見るとやるせない表情で宗が瑞希を見ていた。
「…宗?」
なんで宗がそんな顔をする…?
だって自分なんかが本当は宗の傍にいていいはずないのに。
宗は瑞希から視線を外し窓から外に視線を向けた。
それがなくなるなんて絶対ないと瑞希は思う。
だって宗はお父さんもあんな立派でお兄さんだって、家も立派で、自分も会社創る位で、かっこよくて…。それでも宗が元々男の人を好きになる人だったらまだいいけど、宗は違う。
本当に何の悪戯か、瑞希が無理をして買った車が自分の手元に来た日に宗を引っ掛けて、ただそれだけだったはずなのに今では瑞希にはもう宗がいない事が考えられない。盲目的に宗だけがいればいい位に宗だけが欲しい。
それが未だ全然変わらない。
だっていつも瑞希の心を満たしてくれるのは宗だけだ。
でも宗は違うと思う。
瑞希がいなくてもきっとなんでも出来るし何でも手に入れる事が出来る人だ。
好きだと言ってくれて一緒にいてくれる優しい人。
瑞希の欲しい物を全部与えてくれる人。
でも瑞希は何を宗にあげられているんだろう?
いつもいつも貰ってばかり。
どうしたら宗の役に立てる?
いつもそれを考えてしまう。
役に立つ、立たないで一緒にいるんじゃない、と宗は言ってくれるけれど、それじゃ自分はどうして宗の傍にいられる?
今は仕事で宗を助けるしか出来ないだろう。
表で宗の隣に立てない代わりに仕事で宗の隣に立とう。
それが今瑞希に出来る事だと思う。
瑞希はぐっと歯を噛み締めた。
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