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熱抱擁 angoscia~不安~6

 宗が難しい顔で考え込んでいる。
 家に帰ってくると最近ずっとだ。
 瑞希は自分が何かしただろうか、と宗を伺うようにすると宗は苦笑を浮べる。
 そしてなんでもない、と瑞希にキスしたり、抱きしめたり安心を与えてくれる。
 けれど…。

 今日は土曜日で休み。
 宗とゆっくり一緒にいられる休日が嬉しい。
 どうしても外に出れば気を張ってしまうのは仕方のない事。
 だから家の中ではつい宗に甘えたくなってしまう。
 「なんだ…?」
 宗の腕にそっと縋ると宗がくっと笑う。
 「買い物行くか」
 「うん…食材買って来ないと」
 「今日はどこかで食ってきても…」
 ううん、と瑞希は頭を振った。

 「ウチがいい」
 「だってなぁ…瑞希だって毎日仕事して帰ってきてから飯の支度やなんだかんだと…」
 「でも宗も手伝ってくれるし。全然平気」
 宗は料理は相変わらず全然しないけれど、お風呂掃除とかしてくれるし。でもそんな事も本当は宗にさせたくないんだ…。

 「ん…?」
 宗が携帯の音に反応した。仕事以外では滅多に鳴らない携帯で宗は表示を見て柳眉を寄せた。
 そして瑞希を見る。
 「……親父だ」
 え?
 嫌そうな顔をしながら宗は電話に出た。

 「…もしもし。…ああ、休みだけど?……え?……ああ、分かった」
 宗はずっと瑞希を見たままで、すぐに携帯を切った。
 「…親父に呼ばれた」
 はぁ、と宗が溜息を吐き出している。
 「仕方ねぇな…行くか」
 「家に?」
 「そうだ」
 「じゃ、俺ここで待ってる」
 「いや、一緒に行こう。そのまま帰り買い物してくりゃいいだろ」
 仕事の話なのかな…?
 でもお父さんから宗にって…初めて聞いた気がするけど。


 「瑞希も降りて」
 「え?」
 立派な家の敷地内にミニって合わない…。なんて思ってたら宗に促された。
 「いいよ!車で待ってるから」
 何度か宗が自分の荷物を取りに来るのに一緒に来た事はあったけど家の中までは入った事がなかった。
 「どん位かかるか分かんねぇから。俺の部屋で待っとけ」
 「……宗の部屋?」
 「ああ」

 宗が小さい頃からいた部屋には興味ある。
 どうしよう、と思わず悩んでいたら、ほらと宗にドアを開けられて降ろされ、宗の後ろをついていく。
 いいのかな、と思いながら見た事のない立派な家というよりお屋敷と言っていいような洋館に足を入れた。
 「…怜さんの部屋もあるの?」
 「いや、兄貴は全部あっちの家に運んで何もない。使ってた部屋はそのままなってるだろうけど。あんのはピアノ位じゃねぇか?」
 「…ふぅん」

 一体何部屋あるんだろう?
 これが家?
 と瑞希はきょろきょろしてしまう。
 「ここトイレ、でこっちだ」
 宗に案内されるのにどきどきしてしまう。
 「ここ。何触ったって見てたっていいから」
 「あ、うん…」
 「じゃ行ってくる」
 「…うん」
 宗が瑞希のこめかみにキスして部屋を出て行った。

 ぱたんと閉まったドアに瑞希はきょろりと部屋を見渡した。
 机、ベッド、クローゼット、本棚。
 ローボードにオーディオ、テレビ。
 宗がずっと使っていた部屋…。
 そろりと部屋を歩いて眺める。
 机うを見て、ここで勉強とかしてたのかな?とか、ベッドに座ってここで毎日寝てたんだ、とか…。
 なんとなく宗の事がもっと分かりそうな気がして嬉しく感じてしまう。

 「あ…」
 本棚を眺めていたら卒業アルバムがあった。
 高校のはマンションにあるけれど、幼稚園、小学校と中学校と揃っている。
 見てもいいのかな…?
 何触っても見てもいいって言ってたからいい、かな?と瑞希はそっとそれを取り出した。

 宗の机に向かってそれを眺める。
 小さい宗がいたのに瑞希は可愛い!小さい!と顔が緩みながら眺めた。
 よくみれば卒業アルバムの隣に背表紙に何も書かれていない冊子もある。
 アルバム?
 そっとそれも手に取ってみると小さい宗がいた。
 怜と写ってるのもあるけどそれほど枚数はない。

 「怜さんも小さい!若い~~~!宗…かわいい……」
 宗とは10歳も離れてるので小さい頃はそんなに怜さんに相手にされてなかったらしいけど。
 でもお父さん、お母さんと皆が一緒に写っている写真がない。
 それに宗が嬉しそうに笑っている写真もほとんどない。
 そして枚数もさほどない。
 あっという間に見終わってしまう。
 あるのは宗が小さい頃と、小学生位の頃まで。それもお誕生日らしい時とかのしかないと言っていい位だ。
 普通の家の事は瑞希だって知らないけれど、お父さんが仕事仕事で家に帰ってこなくて、お母さんもほとんど家にいないと言っていた宗の言葉がここに見えたような気がした。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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