瑞希は厭きもせずずっと宗の写真を見ていた。
どれ位の時間そうしていたのか。
小さい宗がどれも可愛くて含み笑いがずっと浮かびっぱなしだ。
「瑞希、待たせた…。何見て……って!おま…!」
ガチャ、とドアを開けて入ってきた宗が瑞希に近づいてきて、瑞希が眺めていた物に気付くと宗が真っ赤になった。
「おかえり~!宗の小さい時、チョーーーー可愛いっ!」
「…よくも気付いたな……」
「ねぇ!これ持っていってダメ?欲しい」
「……別にいいけど…。そんなもん見て何が楽しいんだか……。…いや、瑞希のなら見てみたいな」
「俺の?つまんないよ?きっと」
「俺だって自分の見たってつまんねぇよ。お前の、家にあるのか?」
「あるよ。箱にしまってある」
「じゃあ帰ったら見せろ!」
「え~…見なくていいよ」
「ずりぃだろ!俺のだけ見て!」
ぷぷっと瑞希は笑ってしまう。
「宗……可愛い!!!」
「うっせ!」
ずっと宗の顔が赤くなってて照れているのが分かる。
「お父さんの話って?仕事の事?」
アルバムを出していたのを箱に戻しながら宗に聞いてみた。
「いいや。仕事に関しては一切話ねぇよ」
「………」
プライヴェートの事…。もしかして自分との事だろうか…?
瑞希は浮かれていた心が急に冷えた様な気がした。
「どうした?」
宗は何も言わないけれど…。
「ううん…」
卒業アルバムと宗のアルバムをぎゅっと瑞希は胸に抱いた。
「行くぞ」
「…うん」
宗が手を伸ばして瑞希の持ったアルバムを片手で持ってくれ、もう片方の手で瑞希の手を繋ぐと、宗に連れられ瑞希は宗の部屋を後にした。
誰にも会わない広い家。
なんか寂しい…。
ここでずっと宗は育ったんだ…。
瑞希は宗に握られた手にきゅっと力を入れた。今日は勿論スーツじゃない。Tシャツにカッターシャツを羽織ってジーンズ姿。
「ん?」
瑞希が手に力をこめたのに宗が首をかしげて瑞希を見た。
「…ううん。なんでもないよ。ね…夜、何食べたい?」
そっと囁くように聞いてみた。
「肉」
「…肉ばっかダメだってば」
休日はミニに乗って。
運転は瑞希がしたり宗がしたり。
でもここ最近は仕事でずっと瑞希ばかりが運転になっているから休みの日は宗の運転が多い。
「肉がいい。肉」
「宗いつも肉ばっかり言うんだから!」
買い物してウチに帰ろう。
笑って一緒にいよう。
宗にだって一緒にいてくれる人が必要なのかもしれない。
それが自分だったら…。ずっとずっと一緒にいるのに…。
「明羅くんにメールしよ」
買い物から帰ってきて夕方。ヨーロッパとじゃ時差があるけどもう起きてる、はず…。
「ああ?なんで?用事?」
「ううん。宗の小さい時の写真が可愛いって!それに怜さんちょっと写ってるし」
「…そんな事でかよ」
宗が肩を竦めてる。
「それより瑞希のアルバム出せ」
「え~ちょっと待って…」
文字を打ち込んで送信。
するとすぐに返信が返って来た。それを見て笑いながら瑞希は持ってきたばかりの宗のアルバムを開いた。
「…何してる?」
「え?怜さん写ってるとこ写メで送るの。明羅くんが欲しいって」
「……絶対あっちで桐生騒いでるだろ」
「多分。明羅くんも怜さんの小さい頃の写真とか見た事なかったみたい。これ宗いくつくらいかな?」
「…さぁ?2歳?3歳?そんなもんだろ。知らねぇよ」
宗の言葉が投げやりになっているのが可笑しくて仕方ない。
「じゃあ怜さんは12、3歳かぁ」
怜さんが宗を抱っこしてる写真。
「……可愛すぎる……」
「早く!瑞希のを!出せ!」
宗が言葉を区切って声を大きくした。
「…どこだっけ?」
「み~ず~き~」
「嘘だよ。……でも俺の見てもほんと面白くないよ?」
「いいから!」
宗に急かされて明羅くんに写メ送った後に瑞希の物を置いてある部屋で宗と二人で箱を探す。
「あった!これじゃないか?」
「あ、それだ」
卒業アルバムなんて今まで瑞希は開いた事もなかった。見たいとも思った事などなかったから。過去なんて見ても仕方ないと思ってた。この先を生きてくのにどうしよう、そればかりだった自分。
小、中、高のアルバム。そして施設で撮ってもらった少しの写真。
宗が手に取って写真を見て、瑞希と見比べる。
「……これ、女の子だろ」
瑞希は宗の背中を叩いた。
なんでこんなに恥ずかしいんだ!?
今まで散々宗の写真で騒いでいたのに見事に仕返しを喰らうはめになった。
「瑞希…可愛い…。今でも可愛いと思ってたけど…これやばくね?」
「やばくない!」
今度は宗が嬉々として瑞希の卒業アルバムを手に持った。
テーマ : 自作BL小説
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