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熱抱擁 angoscia~不安~10

 マンションに着くと瑞希は宗に腕を引っ張られ、車を下ろされた。
 そのままエレベーターに乗せられて部屋に連れて行かれる。
 部屋に入るとそのまま風呂場に連れて行かれて、宗がお湯を出し湯船に湯を溜めながら瑞希は服を脱がされた。
 顔はきっとぐちゃぐちゃだ。
 瑞希はずっと泣いたままで、自分で動けなくているのに宗のされるがままにしていると宗が瑞希を浴槽に押し込んだ。

 「俺が何に怒っているのか分かっているか?少し頭を冷やせ」
 そう言って宗は浴室から出て行ってしまう。
 何に怒っている…?
 分からない。
 誑しこめなかったから?
 溜まりきらない湯船に入りシャワーを頭から浴びながらただ瑞希は呆然としていた。

 宗に呆れられた。
 まだ名前も呼んでもらえない。
 でも迎えに来てくれて連れて帰ってきてくれた。
 いて、いい…?
 でもここに宗は一緒にいてくれない。
 怖い…。
 宗に嫌われるのが怖い。
 お湯が溜まって湯船から溢れても動けずただ瑞希は静かに涙を零していた。
 シャワーが瑞希を叩いて涙をお湯と一緒に流していくけれど涙も不安も止まらない。
 助けてくれる人は誰もいない。


 「瑞希っ」
 宗が入ってきてシャワーを止めた。
 「何してる」
 呼んでくれた…。
 「俺……いらない…?宗…もう、嫌…?」
 宗が瑞希を見てくれた。
 そしてはぁ、と宗が大きく溜息を吐き出した。

 「あのな……いらないんだったら怒るか」
 「俺…だめ…?…役立たないから…?」
 「はぁ!?」
 「誑しこめない、から…?」
 「瑞希っ!全然分かってないだろ!一体誰が誑しこめって言った!?」
 「だって、宗に言われたらするって…」
 「だから!いつ俺がそんな事お前に頼んだ!?……お願いだからやめてくれ」
 宗が頭を抱え込んだ。

 「俺……いけない……?宗…嫌……」
 「だから…っ!」
 「何も役立ってない…仕事でも…?」
 「そうじゃねぇって!……瑞希…」
 「だ、って…触るな、って……手…」
 振り払われた。一度だってそんな事された事なかった、のに…。
 「違う。あん時俺は頭に血が上ってたんだ。瑞希を滅茶苦茶にしてしまいそうだったんだ」
 「いい、のに……宗、なら、なんでも……」

 瑞希は泣きながら笑った。
 「瑞希……悪かった…。泣くな…。お前が大事だ、と言ってるだろう?瑞希が自分を大事にしないのに怒ったんだ。分かるか?」
 「わか、ない…。俺?大事なの…宗だけだから…」
 壊れている…。
 瑞希は自分でもそう思った。
 あまりにも宗が大事すぎて、好きすぎて…。
 何も見えていない。
 「俺、宗しかいらない、から…」

 「……瑞希自身も、か」
 宗は頭を振った。
 それにびくりと身体を震わせた。何でも宗の拒絶が怖い。
 「いいか…俺が大事なのは瑞希だ。瑞希が大事なのは?」
 「宗…」
 「その俺が大事なものは瑞希なんだ」
 宗の大事なもの…?
 「ああ。今までの我慢してた分が一気にスパークした。悪かった…。瑞希を拒絶したんじゃない」

 「…いらなくなった、と思った」
 「なるか」
 「宗……触って、もいい…?やだ…?」
 「嫌なわけあるか。ほら」
 宗はまだスーツを着ている。上着は脱いでいたが濡れるのも厭わず腕を広げてくれたのにおずおずと瑞希は手を伸ばした。
 恐々と宗に触れようとすると宗が強く瑞希の身体を抱きしめた。

 「…瑞希…」
 「宗……宗……怖い、…んだ…」
 宗に抱きしめられて今度は嬉しくて涙が出た。
 まだ、この腕は瑞希を抱きしめてくれる。
 宗の首に腕を回して瑞希はしがみついた。
 「あのな、瑞希…なんで未だにそんなにお前は不安なんだ?まだ俺を信じる事は出来ないのか?俺が瑞希を離すと思っているのか?」
 宗が瑞希を抱きしめながら耳に囁いた。
 「……よく分からない…ただ、怖いんだ…宗がもし、俺の事いらなくなったら?飽きたら?嫌われたら?……」
 瑞希は首を横に振る。考えるのも嫌だ。

 「俺がこうしていられるのは宗のおかげ…でも宗にあげられるもの俺何もないから…だから仕事で宗の……」
 「……俺は瑞希が自分を差し出すんなら仕事はしなくていい、と思ってる。そんな事させたいんじゃない」
 「だって、俺にあるのはこの身体しかないんだよ?」
 瑞希は宗から手を離して泣き笑いを浮べながら手を広げた。
 「これも全部宗のだ。宗だけの…」
 「ああ、そうだ。それなら他の奴に絶対触らせるんじゃない。どこもかしこも全部瑞希は俺のものなんだから」
 宗が瑞希を怖いくらいに凝視してそう言うと瑞希の濡れた身体を抱き上げた。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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