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熱抱擁 estro~激しい情熱~1

 宗が分からない。
 瑞希は毎日胃が痛くなりそうになっていた。
 瑞希に対してはどこも変わりはないように見える。
 でも…。

 今まで宗は他所の会社の受付の女性にも誰にも壁を作っていた。冷徹な雰囲気をわざと作っていたのも知っている。
 宗の会社では宗の気心を知っている人達だから宗も表情を隠すなんて事はあまりなかったけれど、一歩外に出れば宗はおいそれと声をかけられないような雰囲気を今までは作っていた。

 それなのに…。
 受付の人がしなを作って宗に近づく。
 宗はそれを拒絶しなくて、それどころかわざわざ宗から声をかけたりするのに瑞希は見ていられなくて顔を背ける。
 嫌だ、見たくない。
 どうして……。
 きゅっと瑞希は唇を噛んだ。
 女の人がいいのならどうしたって瑞希に勝てるはずはない。
 今までは全然宗は歯牙にもかけていなかったのに、瑞希がいても女の人に宗が手を貸したり気遣ったりするのに瑞希の心がどす黒くなって苦しくなってくる。
 

 「瑞希?どうかしたのか?」
 「いえ、なんでも…」
 車に戻って宗に声をかけられて瑞希は顔を伏せた。
 こんな事言えない…。
 出会ったばかりの頃に恵理子との事を誤解した事があって、何かあったら乗り込んできていい、と言ってくれた事を思い出す。

 ここ最近のはそれとは違うけれど…でも問いただしてもいい?
 宗はもう自分に厭きたのか、と?
 宗は何も特定の人に目を向けているのではない。
 それは分かる。
 でもそれでも瑞希は嫌なのに。
 車の中はどうしても無言になってしまう。
 「瑞希…」
 宗に声をかけられた所で宗の携帯が鳴った。

 「もしもし」
 宗がすぐに携帯に出る。
 「ああ、今戻る所だ。まぁ、上々だな。……え?……」
 宗の話し方から相手は坂下さんかな?と予想する。
 「三田ファイナンスの…?ああ…そうだな、それは仕方ない、俺とお前で出る。え?ああ……」
 宗が瑞希の顔をちらと見た。
 「いや、やめておこう。ああ、じゃ、あと戻る」
 宗が電話を切った。
 三田ファイナンスといえば今までの社長が会長に昇格して新社長が就いたばかりのはず。

 「三田ファイナンスから会長、社長襲名のパーティの招待状が届いたらしい」
 「それは…!」
 すごい、と瑞希は笑みを見せた。
 「それには坂下と行ってくるから瑞希はいい」
 「………はい」
 宗の言葉に小さく頷いた。

 瑞希では宗の隣に立てないという事か…。
 プライヴェートで隣に立てない代わりに仕事で宗の隣に立てるように、と思っていたけれどそれもどうやら瑞希では役不足らしい。
 仕方ない、けれど…。
 思わず瑞希はしゅんとしてしまい、また車の中は無言になってしまう。
 そしてそのまま会社に戻った。

 「坂下」
 宗がすぐに坂下を呼んで会議室に入っていってしまう。
 瑞希は自分の席でしなくてはいけない事を済ませることにする。
 宗と一緒に外を回っているのが多いので目を通さなければならない書類が溜まっている。
 でもどうも書類の内容が頭の中に入ってこない。
 プライヴェートを持ち込むな。
 自分はまだ仕事もろくにできていない、だからダメなんだ。
 …だから宗にも呆れられるんだ。

 「宇多さん?」
 「はい」
 呼ばれて顔を上げれば恵理子だった。
 「ねぇ、どうかした…?」
 恵理子はいつもの高い響く声ではなくて瑞希を伺う様にそっと囁くように聞いて来た。
 「ええと、何…が?」
 「二階堂くんと。変じゃない?」
 よく見てる、と瑞希は苦笑を漏らした。

 「ね、こっち。コーヒーご馳走するから!」
 恵理子に腕を引っ張られて瑞希はフロアを出るとカフェスペースまで連れて行かれた。
 「どうしちゃったの?二階堂くんもぴりぴりしてる感じだし」
 「どう…と言われても…」
 困る。何が、どう、という明確な理由がないのだ。

 瑞希が壊れそうになった一件の時以来ずっと宗とはぎくしゃくとした感じがする。
 それも何がどうしてこうなっているかが分からない。
 「…分からない、んだ」
 宗が何を考えているか。
 宗が瑞希をどう思っているか。
 離してやらない、と宗は言ってくれるけれど、でも今はどうなのだろう?

 分からない。
 前はそう思っていたかもしれないけど今は思っていないかもしれない。
 現に宗は瑞希を拒絶しないけれど他の人も拒絶していない。
 一般の人と同じレベル?
 今までは瑞希だけが特別だというのを感じられていたのに、それがあまり感じられなくなった。
 やっぱりもう呆れられた、のか…。
 瑞希は俯いた。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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