「ホント馬鹿だな…瑞希は」
宗が困った表情を浮べて瑞希を抱きしめると涙を拭ってくれる。
「他にも言いたい事あんだろ?出せ」
「俺、いらない…?」
「だからいらなくない。離さねぇ、って言ってるだろ」
「だって!一緒いないほういい、って…」
「瑞希がずっとびくびくしてるからだ。俺を伺って、びくびくして。笑いもしない。そんなの見てる方が辛いに決まってるだろ」
「嫌だ!離さないって言ったんだから!……離さないで…」
「離さねぇよ?絶対。それなのになんで瑞希はびくびくしてる?言葉一つで瑞希は怖がっている。…だろ?」
「怖いよっ!宗に呆れられるのが、いらないって言われるのが…」
「だから言わないって言ってるのに」
「言ってるっ!」
「言ってねぇよ?」
宗が瑞希のこめかみや頭にキスを落とす。
「こんなに瑞希の事ばっか考えてるのにお前は全然分かってないし」
「嘘だもん!宗……女の人の方よくなったんだ、から…」
やっと言ったな、と宗が笑った。
「宗?」
「分かったか?」
「何、が…?」
「お前、俺が女に声かけたりかけられたり触られたりされてどうよ?」
「やだ、に決まってるっ」
「まったくもって俺も同じだけど?いや、それ以上だな」
「………なに、が…?」
「ほんと全然分かってないんだよな…。俺はお前が他の野朗どもにそんな目で見られるのも嫌だし。女に興味ないのは分かってるからそこはまぁ、いいけど、何も言わないで触らせてんのとか」
「そんな事ないっ!俺だって嫌だよ!でも宗の仕事がやりやすくなるなら…」
「まったくもって余計な事だ。かえって気になってお前を触ってる奴を殴り倒したくなってるのに?お前が女に向かって思っている気持ちより俺の方がよっぽど酷いぞ」
「…え……?おな、じ…?」
嫌だった。宗が女の人に触られているのが。
「ぁ………」
瑞希はじっと宗を見た。
「宗、嫌だ……?俺……触られる、の…?」
「やめてくれ、って何回も言っただろ」
「……言った」
「それなのにお前は全然平気だ、って言ったんだ。俺だって女に触られても全然平気だけど?」
「や、だっ!」
ふふん、と宗が笑った。
そして瑞希の頬を手で包んだ。
「分かったか?」
「わか……た…。けど…宗…わざと、してた、の?」
「当たり前だ。何度お前に言ったって全然分かりゃしないし!」
宗が軽くキスした。
「宗…もっと…」
ぎゅうっと宗に抱きついた。
「いくらでも。ほんとバカなんだから」
「宗……嫌、だった…?」
「やめてくれって何度も言っただろうが!全然お前は聞く耳もってなかったけど」
「だって…宗の役に立ちたい…」
はぁ、と大きく宗が溜息を吐き出す。
「それも何度も言ってるのに!役に立つ立たないじゃないだろう?」
「わか、ってる……」
「分かってないだろうが!」
「わか、てる…んだ。でも俺…宗に合わないから…」
「合わない~!?……まだ言ってんのか?」
「だって……俺、宗の奥さんになれるわけじゃないし…俺、……」
「……分かってる。お前が全然足りてないのが」
「…足りてない…?」
「だろ?いつでも」
宗は知ってるんだ…。
何がというわけではないけれどいつでも瑞希の心の奥底が満ちていないのを。
「だからいつでも不安なんだ。だろう?」
「…ごめん……。宗を信じてないんじゃない、だ」
「分かってる」
宗は瑞希の事はなんでも分かっているらしい。
そして宗が優しく瑞希の背中を、身体を撫でてくれる。
「宗…なんで、そんな優しい、の?」
「優しくはない。瑞希にだけだ。川崎 恵理子がいつも俺の事をなんて言ってるか知ってるだろ?」
「ええと…狭い…?」
「そ!瑞希だけが特別だ。だから!いいな。瑞希も俺がされて嫌な事は自分もさせるな。分かったか?」
「……うん」
「っていうか、さっさと我慢しないで言えよな」
「だって……そんなの…俺、醜い…」
「お前はいつでも綺麗だ。外も中もな。純粋なままだ…。むしろ穢してるのが俺だろ」
「違うっ!宗は俺のせいで…俺、いなかったら宗は普通に結婚とか、子供とか…」
「別にいらねぇよ。子供?自分に似た?ぞっとする。……うちの親見てて子供ほしいなんか思うはずねぇだろ。子供放置だぞ?俺自身までそうなるかっていったら分からんけど。ああ…瑞希そっくりの子供だったら可愛がるかもな……………」
宗が眉間に深く皺を寄せて考え込んでいる。
「宗?」
「あ、いや……なるほど、と思っただけだ」
なるほど……?
瑞希は頭を傾げた。
「とにかくそんなの俺はいらない。瑞希がいればいい。瑞希が暗い闇の深淵に堕ちるというならそれも一緒に堕ちてやる」
「……宗っ…」
瑞希は宗の首に腕を回し自分からキスをねだった。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学