「何処行ってたの~」
大きなスーツケースに腰かけて明羅くんがマンションの前で待っていた。
「ごめんね!昨日なぜかお父さんからホテルに一泊貰っちゃって」
「お父さんから?」
きょとんと明羅くんが目を大きくするのに相変わらず可愛いなぁ、と瑞希は顔が緩む。
「それより怜さんはどうしたの…?」
「知らな~い。早ければ次の便で帰って来るでしょ」
どうぞ、と明羅くんを部屋に通す。
「宗~!聞いたよ?」
明羅くんがにたっと笑って宗を見ていた。
「余計な事言うなよ」
「え~!どうしよっかな~」
「桐生!」
何かな?
明羅くんが宗を見てくすくす笑い、宗は渋面を作っている。
「いつ?」
「……12月」
「はぁ~~~ん…」
明羅くんが宗の答えを聞いて笑っている。
なんか二人だけが分かっている会話らしい。
「…ね、何?」
「なんでもない。瑞希コーヒーでも」
瑞希が宗に聞いたけれど宗は答えてくれなくてはぐらかした。
「…うん」
なんだろ?
二人で内緒話って何か面白くないけど…。
「兄貴は何したんだ?」
「べっつに~~!ほら、怜さんはかっこいいし!今なんてどこいったって囲まれるし!」
「……やきもちか」
宗が呆れたように明羅くんに向かって溜息を吐き出した。
「兄貴もう34だろ。オヤジじゃん」
「オヤジじゃないっ!怜さんはかっこいいから!だからもてもてだし!」
「30すぎたらオッサンだろ」
「……………俺もあと2年しないうちに30超えるけど…オッサンなんだ……」
コーヒーの用意をしていた瑞希がぼそりと呟くと宗が慌てた。
「瑞希は違う!」
「宗、最低~~~!」
「桐生、うるせぇ」
ふぅん…
瑞希がじとっと宗を見ると宗が慌ててキッチンまで来る。
「瑞希は違うから」
「別に~。宗がそんな風に思ってるのに否定もしないけど?オヤジ、オッサン…」
「瑞希~~~!」
つんとして瑞希はコーヒーを入れて明羅に出した。
「宗、相変わらず最悪~。瑞希さん考えたら~?」
「…傷つくよねぇ…」
「怜さんも最近俺の事なんて放っておきっぱなしだし」
「二人で暮らそうか?」
「あ!いいね!」
「瑞希!桐生!」
明羅君と顔を突き合わせてふふと笑う。
そんな事言ったって明羅くんは怜さんが好きだし、瑞希は宗が好きだ。
「でも…本当に怜さんと別の便で帰ってきたの?」
「だよ!早ければ次の便で来るでしょ!」
相変わらず強気だなぁ、と瑞希はちょっと羨ましくなる。
「でも…何となく変わった?」
「え?」
「宗と」
明羅くんがくすっと瑞希を見て笑った。
「雰囲気よくなったね?」
小さく明羅くんが言ってくれたのに瑞希はこくりと頷いた。
「色々あったんだ…」
「だろうねぇ…でもよかった?」
「うん…」
くすくすと明羅くんと額を合わせるようにして笑っていると宗が呆れたように見ていた。
「俺達いない間に瑞希さん、宗の会社に入ったんでしょ?大変じゃない?」
「大変?ううん、全然」
「…嘘だ」
明羅君が宗を見ると宗はつっと視線を反らした。
「………絶対宗が我儘言ってるな」
「我儘?」
「瑞希さん綺麗だから。俺から離れるな、とか誰とも話すなとか言ってそう…」
見てたんだろうか…?
瑞希は宗と顔を合わせる。
「…やっぱりね」
明羅君がうん、と頷いている。
「ホント、宗に付き合えるのって瑞希さんしかいないよねぇ。絶っ対に普通の人じゃ無理っ!」
なんで皆そういう風に言うのかな?と瑞希は頭を捻る。
「…………否定はしないけどな…」
宗は溜息を吐いて肩を竦めていた。
「次の便って何時着だよ!?ったく、早く引き取りに来いよな…。うるせぇ…」
「午後でしょ」
つんとして明羅くんが答えるけど後悔してるのは目に見えている。
そりゃそうだ。10時間以上も離れてるんだから。
瑞希はよしよしと明羅の頭を撫でる。
「きっとすぐ怜さん飛んでくるよ」
「…かな?」
「当たり前でしょ」
くすっと瑞希が笑った。
何処に行くでも一緒に行くのに。
「ヨーロッパのあちこちで演奏してきたんでしょう?怜さんの演奏どうだったの?」
宗がちょっと可哀相で明羅くんに怜さんの話題を振った。
「よかったよ!!!もう鳥肌治まんなくて大変だった!音がもう!日本と全然違う!」
明羅くんが目を輝かせて怜さんの事ばかり話し始めるのに瑞希は宗と顔を合わせて笑ってしまう。
「明羅っ!」
午後に怜さんが髪を振り乱して明羅くんをお迎えに来て、玄関先で熱烈な抱擁を交わすのに瑞希の方が照れてしまう。
「人騒がせな…」
「宗ほどじゃないだろ」
明羅くんを抱きしめたままの怜さんにまでそんな事言われて宗はむっと口を噤んだのに瑞希はくす、と思わず笑った。
「瑞希くん悪かったね?」
「いいえ。全然」
いつだって明羅くんや怜さんと会えるのは嬉しい。宗の家族だ。
その中に自分も入っているようで瑞希は嬉しいんだ。
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