宗とは安定したと思う。
あんなにいつも根元に不安があったのが軽くなった。
完全に不安はなくなったかといえば勿論そんな事はないけれど。
どうしたって瑞希は自分に劣等感はある。
親にも捨てられた自分という思いは一生なくなる事はないだろう。
それでも宗はこんな親にまでいらないと捨てられた自分をいつも捕まえていてくれる。
必要だと、欲しいと言ってくれる。
それがどんなに瑞希を形成するのに占めているかなんてきっと宗は知らないだろう。
もし宗に必要とされなくなったら…。
それを考えれば止まらなくなる。
でも宗の腕は毎日瑞希を抱いてくれている。
いつもいつも。
熱を放つように熱い時もあれば、穏やかな時もある。
すり、と身体を寄せれば必ず宗の腕は瑞希の身体を抱いてくれる。
宗の会社に移って2ヶ月が過ぎた。
仕事も順調。
会社の人達もいい人ばかりだ。
瑞希が今まで生きてきた中で一番穏やかで幸せだと毎日を感じた。
ずっと何かに追いたてられるように気を張って、一人で生きていかなければと思ってきた。
それが宗に寄りかかることが出来る。
宗が助けてくれる。
見捨てないと。
……あの一緒に堕ちてやるの言葉に救われた。
瑞希が堕ちても、宗が助けられなくてもそれでも一緒に、と…。
それが瑞希の中に光を射してくれたのだ。
12月。
12月23日は宗と出会ってから丸6年になる。
そしてクリスマス。
毎年特別な日が続く。
宗といると大切な思い出が増えていく。
世の中なんて、生きていたっていい事なんてないと思っていたのに、世界がこんなに優しく、嬉しく、幸せに感じるなんて知らなかった事だ。
12月23日はどうしよう…?
いつも宗は外にディナーに行くけれど。
クリスマスツリーを出しながら瑞希の顔は笑みが浮かんでしまう。
毎年12月に入るとクリスマスツリーを飾る。
家にツリー。
「…いつも瑞希はクリスマスツリーを飾る時楽しそうだな」
宗がソファで横になりながら瑞希を見てくすと笑った。
「うん。楽しいよ。だって幸せって感じがするでしょ?」
「そうか?」
「そうだよ」
宗がソファから立ち上がってきて一緒に飾りつけを手伝ってくれる。
出来上がって電飾の電源を入れるときがいつもドキドキする。
ぴかぴか光る電飾が心を光らせてくれるようだ。
「瑞希…」
「うん?何?」
宗が瑞希の肩を抱き寄せながら声をかけてきて耳元にキスしてくる。
「23日だけど」
「うん」
「外じゃなくて家で、ここで、いいか?」
「うん!勿論!俺、外よりも家のほう好き」
「飯の用意はケータリング頼むから」
「え!それもいいよ…俺が…」
「いや、そこはダメ。特別な日だからな」
「……いいのに」
「そこはやっぱり俺に見栄張らせて?」
宗がくすくす笑いながら軽く唇を合わせてくる。
なんでこんなに宗だけが欲しいんだろう?
ううん、分かってる。
宗だけが瑞希に温かい温もりを与えてくれるからだ。
時には苦しくもなるけれどそれでも宗だけが温かい家も気持ちも腕も瑞希に惜しみなく与えてくれるから。
「宗……好きだよ。全部」
「そんなモノ好き瑞希だけだ」
「そんなことないよ。宗はカッコイイし、俺なんかでごめんね、って感じなのに」
「んなわけあるか。桐生だって恵理子だって坂下にだって皆に言われてるだろうに」
「…それが分かんないんだよね…」
瑞希が眉間に皺を寄せれば宗が笑う。
「でも嬉しいんだ…」
照れくさそうに瑞希が笑えば宗がぎゅっと瑞希を抱きしめた。
「瑞希だけだ。俺に呆れないで付き合ってくれるの」
「そんな事ないってば!」
「好きだ。ずっと…」
「うん。…俺も」
前は信じきれなかった言葉。
でも今は信じられる。今も明日も明後日も。
きっとこの先も、だ。
もうすぐ23日。
今年はどんな過ごし方になるだろう?
でもきっと幸せに違いない。
宗がいてくれれば何もなくたって瑞希は幸せだと思えるんだから。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学