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熱視線 夜想曲~ノクターン~9

 う~~~、緊張する。
 全部終えて明羅はピアノの前に座った。
 折角の怜のご飯だが、味が分からなくなる位緊張していた。
 「俺は?横にいる?離れたほうがいい?」
 怜がにこやかに聞いてくるのが恨めしい。内心は離れてもらった方がいいと思うのだが、明羅は小さく傍にいて、と囁いた。
 だって怜がどう思うか感じたかった。
 離れてたら気になって気になって仕方ないと思う。
 怜が椅子をひっぱり明羅の横に座った。
 
 いよいよ。
 恥かしい!
 そう思いながら、今度は妙に落ち着いてきた。
 ちらと怜の顔を見れば目が優しいのに明羅はほっとして鍵盤に指を置いた。
 音はどうしたって怜に敵うはずがない。
 そんなの当然。
 それならもう後はどれだけ怜の事を思って弾けるか、だけで、開き直ってしまった。
 ドキドキしてた心臓は静まって、鍵盤と怜の存在だけを感じる。
 ジュ・トゥ・ヴ。
 あなたが欲しい。
 7歳で初めて演奏を聴いてこの音だと思った。
 泣き叫びたくなる位に音が欲しいと思った。
 それが毎年。
 今はもう敵わないのは分かっている。
 自分で出したかった音。
 でもそれが今は間近で、そして音だけではなくて怜さんが全部欲しいと思うようになってしまった。
 怜さんだけ。
 欲しい。
 どこもかしこも。全部が好きだ。
 今となってはもうピアノがあってもなくても全部が好き。
 ピアノだけじゃないよ。
 全部なんだ。
 頭を撫でてくれるのも好きだし。運転してる怜さんを横目で見るのも好き。楽譜を真剣に見てるときも、料理してる時も、ぼうっとしてる時も。 朝起きて怜さんが隣にいるのが嬉しい。寝るとき抱きしめてもらって腕の中にいられるのが嬉しい。
 男同士のはずなのに、なんでこんなに違和感なくてすんなり受け入れられるのか不思議で、そして当然とも思えてしまう。
 キスも、もっと欲しい。
 とにかく全部なんだ。
 欲張りだと思うけど…、でも全部。
 
 はふ、と明羅は息を吐き出して鍵盤から手を離した。
 あれ?全然自分の音聞こえてなかった。どう弾いたかな?
 散々練習したから間違いとかはないと思うけど。
 まったく自分の音が聞こえていなくて心配になって明羅は横にいる怜をちらっと見た。
 「あ、の…怜さん…?」
 また怜さんは固まってて。
 そしたら怜さんががばっと立ちあがった。
 「ちょ、…怜さん!?」
 怜が明羅の身体を持ち上げて肩に担いだ。
 明羅がびっくりして慌てるが怜は全然びくともせずに明羅を荷物のように担いで寝室に向かったと思ったら、ばふりとベッドに投げ出された。
 「怜さん?」
 そしてすぐに怜さんが明羅の上に圧し掛かってきた。
 「ぅ……んッ!」
 怜の手が明羅の両頬を包んで性急に怜の唇が明羅の唇を塞いだ。舌が容赦なく明羅の口腔に入ってきたと思ったら蹂躙を始める。
 それに酔わされながらも明羅はジュ・トゥ・ヴが気になった。
 でも怜がこんな余裕のないようにキスをしてくるのに気持ちが伝わったのかな、とも思って怜が与える甘い痺れに身を委ねてしまう。
 「怜、さん…」
 唇が一瞬離れた瞬間に怜を呼んだ。
 「…聞こえた、から」
 怜が声を絞り出した。
 「お前が欲しい」
 ぶわっと明羅の肌が粟立った。
 怜の顔に余裕が見られない。 
 怜の目の奥に熱が見えた。焦燥感が見えた。吐息も熱い。
 「お前も、…だろ…?」
 うん、そう…。
 明羅は小さくこくりと頷いた。
 欲しい。
 怜さんを全部。
 どうしたらいいのか明羅は分からないけれど、怜は知っているはず。
 そっと明羅は怜の首に腕を回した。
 怜の顔が近づいてきて明羅の唇を啄ばんだ。
 まだ数える位しかキスしてないのに。今日だって今がはじめてのキスで、本当はもっとして欲しいと思ってる。
 それを知られたくない、と思いながら、でもして欲しい。
 「もっと…」
 離れるのが嫌だ。もっとくっ付いていたい。
 なのに怜は明羅から離れようとした。
 「や、やだ…」
 「やだ?何が?」
 「離れたくない…」
 くっと怜が笑った。
 「離れるつもりはないな。服ぬいで」
 「…え??」
 「覚悟しろっていっただろ?」
 え?ときょとんとしている間にTシャツを脱がされ、怜も自分で脱いだ。
 そしてその怜の手が明羅のハーフパンツにかかったのに慌てて怜の手を抑えた。
 「や、だ、だめだってば」
 「何言ってる。覚悟しろって言っただろ?もう止められない。我慢も出来ないから」
 怜がにっこりと笑みを浮べた。

 

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