出てきたのはなんと養子縁組の書類だった。
「未成年じゃないから簡単な方の、って言ってた」
「でも!これ本当の手続きの書類でしょ?」
「当たり前だ。ふざけてどうする」
「だって!」
「本当は俺の戸籍に入れたかったんだ!でも俺の方が瑞希より年が下で入れられないんだ。だから仕方なく!俺の子供でも微妙なことは微妙だけど、兄弟も微妙だ…。けど、瑞希にとってはいいかな、とも思う。書類上親父は養父、俺と兄貴は兄弟だ」
瑞希の頭の中がぐるぐると回ってくる。
「宗!ちょっと待って!ホントに!何考えてんのっ?」
「マジメに考えてるけど?宇多、は瑞希の本当の苗字じゃない。だったら二階堂にした方いいだろ?」
「だ……ちょ……」
あわあわと慌ててしまう。
「お父さん、は?…怜さん、は…?」
「だから、親父はそれ直筆で書いてるだろ、名前。兄貴は二階堂なんていらないって言ってるくらいだし」
「宗のお母さんは?」
「それは知らない。そういやもう何年も会ってねぇな。もともと年に何回も会わないし、別に会いたいとも思わないけど。あの人は自分の遊ぶ金があればいいんじゃないのか?なんか離婚するとかしないとかって話もあるとかないとか…俺は知らねぇけどな…」
「変っ!絶対っ!」
「……変、て事ないだろうよ」
宗ががくっとして頭を抱えた。
「瑞希が嫌だ、って言うなら仕方ないけど…。ちゃんと瑞希に根っこを作ってやりたかったんだけどな…」
根っこ……。
「瑞希は一人じゃないって」
「そ、う……」
ぼたぼたと涙が溢れてくる。
「書類上の事だけど、それって瑞希には大事だろ?」
宗が瑞希の頭を抱えた。
「断るのなし、って言ったよな?返事は?」
「…うん……。はい……」
よしよしと宗の手が瑞希の頭を撫でた。
「これ瑞希の名前書いて出しゃ、そう簡単に別れられない、だろ?」
「う、ん……」
涙は止まらない。家族…?ほんとの…?
「瑞希、手」
手?
「あ……」
宗が小さな箱を出して指輪を取り出して瑞希の左手の薬指に嵌めた。
「式場でも神前でもないけど、な」
ますます涙は滂沱となって流れてくる。
「……涙、止まんない、よ…」
「いいよ?」
くつくつと宗が笑ってる。
「こっちは瑞希がつけて?」
泣きながら瑞希はもう一つを手に取って宗の指に嵌める。
「瑞希くん?クリスマスプレゼントは?」
「…え?」
「ちゃんと俺がいいな、って言ったの買ってくれたか?」
「…買った、よ」
「うん。普段はそれに通しておけ。まさかさすがに二人で公にこれはして歩けないからな」
「……うん」
全部宗の計画だったんだ。
「宗っ!」
瑞希はがばっと宗に抱きついた。
「明日それ出しに行くぞ?そんで親父と兄貴達んとこに挨拶だ」
「……ん!宗……宗……」
「…満足か?安心出来る、か?」
「ん……。でも、信じ、られな、い……」
「本当だ」
宗の腕はずっと瑞希の身体を抱いて背中を撫でていた。
「あの、お父さん……本当に…よかった、んですか?」
二階堂家に宗と一緒に顔を出してお父さんを目の前に瑞希はどきどきと心臓の音を大きく鳴らしていた。
「よくなかったら書いてないけど?」
くっとお父さんが笑う。
「これで一応瑞希くんのお父さんだからいつでも電話して。ああ、ここに住んでもいいよ?」
「住むわけねぇだろ」
「……本当に息子達は可愛くないけど、瑞希君も明羅くんも可愛いね」
「…………」
宗が呆れたようにお父さんを見ていた。
そのあと怜さんの家にも行く。
「いらっしゃ~い!二階堂 瑞希くんになったの?」
「……明羅も二階堂 明羅くんになるか?」
「なんな~い!」
「なんで!?俺は明羅より年上だから俺の籍に入られるだろ?」
「やだよ!怜さんの子供なんて!」
明羅くんが顔を真っ赤にして騒いでいる。
「そんなのいいから!入って入って!」
明羅君が瑞希の腕を引っ張って中に通され、明羅くんと頭をつき合わせて小さく小声で話しをした。
「よかったね?」
「…ありがとう」
「安心した?」
誰もが瑞希が不安がっていたのに気付いていたらしいのに苦笑する。それ位瑞希を気にしていてくれたという事だ。
「…うん」
「俺は宗のどこがいいのか分かんないんだけど」
「全部だよ。明羅君だって怜さんの全部好きなんでしょ?」
「全部……かなぁ?」
かなぁ?なんて言ってその顔は蕩けそうだ。
「瑞希さん、幸せ?」
「うん……。……うん…ありがとう」
瑞希が大輪の花を咲かせるように笑った。
それを明羅が、怜が、そして宗が微笑みを浮べて見ていた。
Fine
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