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翼が見えたんだ。

 「長谷川、明日ライブいかねぇ?」
 「え?誰の!?」
 長谷川 岳斗(はせがわ やまと)は同じクラスで友達になった谷村に声をかけられて目を輝かせた。
 「ここのガッコの先輩のバンド」
 なんだシロートか…。
 とはいってもライブなんて行った事もなかったので行く!と岳斗は即答した。
 「チケット2000円」
 痛い!それは痛い!けれどまぁ、いいや!と財布から金を出してチケットと交換した。
 「対バンで何バンドか出るらしいよ?」
 「ふぅん…」
 あんまり期待しないでおこう。
 高校生になって中学校ではライブに行くなんて事が今までなかったのでちょっと大人な気分だ。
 「初めて?一緒行く?」
 「うん!」

 待ち合わせ場所でどきどきして岳斗は待った。
 「お待たせ!行こうぜ」
 「ああ!谷村は行った事あんのか?」
 「何度か。ボーカルの人中学校ン時の先輩で必ず声かかるんだよな…結構キツイんだけど…断れなくて…」
 谷村は背が高いので目立つし、きっとそれで声もかけられるのだろう。

 ライブハウスなんて岳斗は生まれて初めてだ。
 谷村についてドアをくぐると別世界が待っていた。
 熱気。
 まだ演奏が始まったわけでもないのに会場には熱気が籠もっていた。
 ドラムセット、照明、観客。
 どれもが岳斗には興奮して見える。
 テレビでしか知らない世界だったのに、それが目の前にある。
 どんな演奏が始まるんだろう?
 期待に胸がドキドキしてしまう。
 
 照明が落とされバンドが登場。
 大音響!
 バスドラの音が腹に響く。
 ギターの音が耳を劈く。
 キャーという黄色い女子の声。
 バンドにファンがいるらしい。
 生のバンドの音が岳斗には初めてだった。

 イイ!
 上手い下手というよりももうイイ!としか言えなかった。
 だって生の音だ。
 ちょっと音が外れた、とか、歌が遅れたとか、そんなのどうでもいい位に興奮した。
 腕を振り上げる観客に交じって岳斗も腕を振り上げる。
 オリジナル曲がほとんどなのだろう。全然知らない曲ばかり。
 それでも一緒になって盛り上がった。

 「続いてLinx(リンクス)!!!」
 キャーーーー!!!とさらに黄色い声が響き渡る。
 ギターから前奏が始まってヴン、とベースがグリッサンドから入るとドラムが加わる。
 ぞくんと岳斗の腕に鳥肌が立った。
 ベースの音が腹に響いてくる。
 音がカッコイイ!!!
 ボーカルの歌が上がっていくのと反対に下がっていくベースライン。
 うわ!曲もカッコイイ!!!
 あまり背の大きくない岳斗は背伸びしてベースを弾いている人を前に立つ人の頭を避けながら見た。

 肩にかかる髪。
 派手なパフォーマンスはないけれど時折頭を振り上げる。

 かっけぇ~~~~~……

 ボーカルが、ギターが、派手にアクションしているのにそれは全然目に入らなかった。
 ずっと岳斗はそのベースの人とベースの音に釘付けになっていた。
 「チヒローーーーー!!!」
 岳斗の前に立っていた女子が声をあげるとそのベースの人が顔を上げて岳斗の方を見た。
 勿論岳斗を見たんじゃない。
 キャーーーー!!!とその女子が卒倒しそうな悲鳴を上げていた。

 チヒロ…っていうのかな…?
 ざわざわと鳥肌のたつ腕をさすりながらじっと岳斗はベースの人だけに視線を奪われていた。
 耳もずっとベースの音だけしか聴こえない。
 歌もドラムもギターも聴こえてはいる。
 でも…奪われたのはベースの音と人にだ。
 その人だけスポットライトが当たっているように見えた。
 その人だけ…。
 名前も何も知らないのに。
 くるくると照明が回る。

 その光りに照らされてその人の背中に翼が見えた。
 ベースを抱くようにしてその人は弾いていた。
 うっすらと笑みを浮べて。
 岳斗は何も見えなかった。
 その人しか目に入らなかった。

 どうしよう…。

 岳斗はただひたすらその人だけを見ていた。


 「なぁ、Linx、っていったバンドのベースの人って…」
 帰り足、まだちょっと呆然としたまま岳斗は谷村に聞いてみた。
 「ああ、千尋先輩?」
 「え…?」
 「なんだ知らなかったの?Linxがウチのガッコの先輩達だよ。ベースは篠崎 千尋先輩。わりと有名だよ?」
 「…そう、なの?」
 「そう。ボーカルが森 孝明。ギターが 井上 尚(なお)。ドラムが松野 弘一郎」
 「……詳しいね」
 「まぁね~」
 谷村が肩を竦ませた。
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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