真っ赤になりながら走って教室に戻ってきた岳斗にクラスの奴らがきょとんとしてそして笑い出す。
「なんだ?長谷川~!告白でもされたのか?してきたのかぁ?」
「されてねぇし!してねぇし!」
真っ赤になったままそう答えて、そして岳斗は机に突っ伏した。
まだ岳斗をからかっている声が聞こえるけどそれどこじゃない!
だって千尋先輩が目の前にいたんだ。
タバコのニオイと一緒にいい匂いが…。
声が…。
自分の手が千尋先輩の制服掴んだ。
……つうか、千尋先輩を下敷きにしてしまったんだ!
ぎゃぁ~!
心の中で岳斗は悲鳴を上げる。
一方的にべらべらと喋って。
心臓がうるさくどきどきしてる。
か、か…
かっけぇ~~……
間近で見た千尋先輩もカッコよかった!
声、低くて響く。
あれ耳元で囁かれたらやばくね?
かぁっとますます熱が上がってきそうになる。
そういや、腕、掴まれた。
つうか、千尋先輩の上乗っかって、千尋先輩が岳斗を抱えるようにして…。
う~~~わ~~~~~っ!!!
岳斗は頭を掻き毟りたくなった。
千尋先輩!
何度心の中で呼んだだろう?
ライブの時は声も出せなくていつもただ見つめるだけ。
だって見惚れるんだもん。
他になんか目がいかなくて、千尋先輩が出たらもう岳斗の目は千尋先輩から離せない。
その人が岳斗の腕掴んで、岳斗が乗っかって、抱きしめられたような形になって…。
どうしよう!床を転げまわりたい!
家だったら転げてる!絶対!
…いい声だったぁ…
今度は今あった事を思い出してぼうっとしてくる。
夢、じゃねぇ、よな…?
いや、夢だったとしてもものすご~くいい夢だ!
かっけぇ!
どうしよう?
やっぱ好きかも…。
でも性格とか全然知らないんだけど。
…顔、覚えてくんないかな?
もう話出来ただけでも舞い上がってる。
頭の中が今の千尋先輩でいっぱいになってる。
だって今の千尋先輩は岳斗しか知らないんだから岳斗だけの千尋先輩だもん!
ライブでは客が見てるから岳斗だけが知ってるわけじゃないけど、今の千尋先輩は岳斗だけのだ。
「………運使い切ったかも…」
机の顔を突っ伏したまま小さく呟いた。
でもいい。
悶えそうだ。
千尋先輩…。
息が苦しい。
顔が、身体が熱い。
初めて喋ったんだ。
一緒の学校でよかった~~~~~!
ちょっとだけ無理して入った学校だった。
よくやった自分!と誉めたくなってくる。
千尋先輩は岳斗よりずっと身長も高い。
千尋先輩の胸に…身体の上に…
思い出すとかぁ~~~~っとしてきて思わず頭を抱える。
今日はもうダメかも。
千尋先輩を思い出しただけで岳斗は使い物にならないかもしれない。
でもバイトあるし。
思い出さないように…。
…と思った傍から千尋先輩の声を思い出して匂いまで思い出してくる。
ダメだってば!
ぶんぶんと首を振るけどやっぱり千尋先輩が頭から離れない。
「長谷川~?まじでどうしたぁ?」
ずっと机に突っ伏したままの岳斗に具合でも悪いのか、とさっきまでからかっていた声に心配の色が交じってくる。
口を開きたい!
千尋先輩かっけぇ!
会ったんだ!
って……。
言えないけど。
だって男の先輩と会ったからって普通はここまでなんねぇよなぁ?
いや、千尋先輩だったらアリかも!
誰見たってかっけぇし!
「大丈夫!なんでもねぇよ」
岳斗は顔を上げてそう言った。
「そっか?でも顔まじで真っ赤だぞ?熱?」
「ううんっ!なんでもねぇって!」
「マジで告白でもされたかぁ?」
「ちげぇってば!そんなだったらもっと喜んでるって!」
「確かに~」
そんなの嘘。
だって女子に好きって言われたって岳斗はなんとも思わないから。
告白…。
千尋先輩に好き、なんて言ったらどうなるんだろう?
いや、男に言われたってキモ!位しかないだろうけど。
それに黙ってたって千尋先輩には女子寄って来るだろうし相手にされる事なんてそもそもナイだろ。
話だって出来ねぇ位なのに。
今日の事が特別なんだ。
でもまた屋上行ったら千尋先輩いるかな…?
それとも岳斗が行ったから二度と来なくなるかな…。
うう~ん…岳斗が唸った。
やっぱりどうしたって頭の中は千尋先輩だけだ。
「……重症、かも…」
はぁ、とまだ顔が熱いまま頭をうな垂れて呟いた。
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