はのんのBL部屋

　千尋先輩の事で頭がいっぱいになりながらも学校を終え、急いで家に帰った。
　ばたばたと着替えてパンをつまんでから行ってきます！と岳斗は家を飛び出す。
　叔父さんの酒屋までは歩いて15分位で近い。
　頭の中が千尋先輩を思い出そうとするのをどうにか押し込んで岳斗はバイトだから、と自分に言い聞かせる。
　気を抜けばもう千尋先輩の事ばかり。
　ぱん！と自分の頬を叩いた。
　「よし！」
　ライブに行くためにもバイト頑張らないと！

　「こんにちは～！」
　「おう、待ってたよ！」
　待ってたなんて言われると期待されているようでちょっと嬉しくなる。
　「なに？ライブに行く為の？」
　「そう！だからライブある時は来られないけど！」
　あはは、と叔父さんが笑う。
　「いいよ。分かった。岳斗にお願いしたいのは近所の飲み屋さんとかに配達。店が始まる前の時間だからいいよな？あとは商品の補充とか。重いけど…そんな細っこい身体で大丈夫か？」
　「大丈夫！小さいけど頑丈だから！」
　親指を立てて岳斗がにっと笑うと叔父さんも笑った。
　「近所の配達っていっても小さいスナックとか多いしそんなにそんなに多く運ぶって事はないから。でもちょこちょこあってな。車出すほどじゃないしってのがほとんどだ」
　「頑張る！」
　「おう、期待してる」
　それ位だったら岳斗にでも出来そうだ。
　「んじゃ、まずコレ。だいたい今日行ってもらう所は頻繁に配達あるから場所とか店の名前覚えてな？あと搬入する時裏口使って」
　「はぁい！」
　「袋に店の名前と注文表貼ってあるから地図で確かめて、分からなかったら聞いて？」
　「はい！」
　すでに持って行く商品はビニール袋に詰めてあったのであとはそれを配達するだけらしい。
　岳斗は、＜阿部酒店＞と名前の入った前掛けを渡されてそれをつけ、さっそく袋に張ってある伝票を確かめた。

　店の名前が書かれた地図を手に伝票に書かれたお店に商品を運んでいく。
　だいたいが叔父さんの言ったように小さいスナックが多い。
　行く先々で声をかけられる。
　「こんにちは～！阿部酒店です！品物お届けにきました！」
　普通に声が出せるのに俺、商売向いてるかも～、なんて暢気に思ってしまう。
　「あら、バイトの子？」
　「はい！よろしくお願いします！」
　にっこり人懐こく笑顔を見せればだいたいの人は背のあまり大きくない身体で細めの岳斗に頑張ってねなんて声をかけてくれる。
　感じがいい人ばかりで岳斗もほっとする。
　店に戻って確かめて次の店へ。

　「大丈夫そうかい？」
　「はい！」
　叔父さんに声をかけられて岳斗は元気よく返事を返す。
　次は…。
　店の名前が＜Since50’s>。
　地図で場所を探すと地図にはライブハウスって書いてあった。
　「叔父さん、近所にライブハウスなんてあったんだ！」
　「ああ。あんまり大きくないけどな。ビートルズとかやってるぞ？」
　「マジで！？」
　岳斗が目を輝かせた。
　「オールディーズとか」
　「うわぁ！…でも、まだやってない、よね」
　時計をみればまだ夕方5時にもなっていない。
　「やってないな。残念だな？」
　くくっと叔父さんが笑っている。岳斗が親の影響で古い洋楽も好きなのも知っているのだ。
　「ちぇ！行ってきま～す」
　でもそんなライブハウスがあったなんて発見だ！
　わくわくしながら袋を持って岳斗は向かった。
　
　あった。
　どうやら地下にあるらしい。
　狭い階段の前には黒いバイクが止まっていた。
　かっけぇな、ぴかぴかで綺麗だな、と岳斗はそれを横目で見て恐る恐る階段を下りていく。
　地下だから裏口が分からない。
　ビルの裏かな？と思いながらもま、いいや、初めてだし後で聞こう、と階段を下りていく。
　地下なので薄暗い。
　疲れた感じのする階段に大丈夫かな、と思いながらそっとドアを開けた。
　「阿部酒店です～」
　あまり大きくない声で中を覗き込みながら声をかけた。
　誰もいないと思ったら人はいた。
　
　小さなキャパ。客は30人入るかどうか位だろうか。
　小さなステージにドラムセット、アンプがセットされている。
　そこに4人の人がいた。
　「あっ！！！」
　思わず岳斗は大きな声を上げてしまった。
　すると4人が一斉に岳斗の方に視線を向けてきた。
　そして岳斗はやっぱり一人にだけ目を吸い寄せられる。

　「千尋先輩っ！」
　ひ、と息を飲み込みながら岳斗は声をあげた。
　
　そこにいたのはLinxのメンバーだった。
　
　

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学