ベッドに入ったけどなかなか目が冴えて眠れない。
だって明日も千尋先輩と会って話が出来ると思ったらもう~!悶えてしまう。
それに昼の事とバイト先であった事を思えばさらに目が冴えてくる。
ずっと鼻腔の奥に千尋先輩の匂いがこびりついている感じがする。
ムスク系なのかな?フレグランスとタバコの匂いが混じって甘く感じてしまう。
声が近くて。
この手が千尋先輩に触れて、いや、身体ごと乗っかったんだ。
そして千尋先輩の手も岳斗の身体を押さえてて。
その光景を思い出し、脳裏に浮べる。
「千尋先輩…」
小さく声に出してみた。
千尋先輩のベースを弾く時の指を思い出す。
大きい手に長い指。
あの手が岳斗を今日、掴んだんだ。
「ぁ……」
ずくんと身体が疼いた。
岳斗はそっと自分に触れた。
「千尋先輩」
千尋先輩の手がそのまま岳斗を抱きしめてくれて、名前を岳斗、なんて呼んでくれたら…。
千尋先輩の事を想像しながら自分のはち切れそうになったものを扱く。
「ちひろ先輩…ぁ……」
あの目の前にあった顔がキスしてくれたら?
そのまま抱きしめられたら…。
高い背に広い胸だった。
手の大きさもリアルに感じられてますます熱が高ぶってくる。
ベースを弾く時の千尋先輩を思い浮かべる。
撫でるようにネックを滑らせる指。
あの指で…手で…。
「あ、ああっ…!」
小さく岳斗は声を上げて熱を放った。
「………しちゃった……」
千尋先輩で。
なんとなくいたたまれない。
慌てててティッシュで拭って、はぁ、と自己嫌悪に陥る。
「………ごめんなさい…」
別に誰も見てるわけでも知っているわけでもないけれど…。
ばふっと布団を被って岳斗は目を閉じた。
結局あまり寝られないまま岳斗は朝を迎えた。
幼稚園児か小学生か…。
でも今日のお昼は千尋先輩に会える!
そわそわと時間を過ごした。
だけどものすごく時間が過ぎるのがゆっくりに感じる。
岳斗は東校舎の屋上を眺めた。
いつ千尋先輩が来るのかな、と思って。
でもまだ姿は見えないみたい。
昨日みたいに横になっていれば勿論確認は出来ないんだけど。
1時間目、2時間目…。
それでも時間が過ぎていく。
天気もいいし、お弁当持って行っちゃおうかな、と考えた。
そうすれば心の準備して待っていられるかもしれない。
そうしよ!
授業なんか全然頭に入らなくて浮かぶのは千尋先輩の事ばかりだ。
やばいなぁ…。
昨日の夜は思わず千尋先輩でしちゃったし…。
やっぱ好き、なのかなぁ?
全然知らなくても好きになるってあるのかな…?
そんな事を考えているうちに時間がどんどん過ぎていった。
お昼休み。
岳斗はいそいそと隠れるようにして弁当を持って屋上に向かった。
千尋先輩いるのかな?後から来るのかな?
人影は見えなかったからまだいないだろう。
もしかして忘れているかもしれない。
……むしろそっちの方が確率的に高いだろうと今更気付いた。
でもいいや、と岳斗は人目を気にしながらそっと屋上に向かう階段を上った。
静かにドアを開けて、壁伝いに歩いて、昨日躓いた所に千尋先輩の足がない事を確認する。
なんだ、やっぱいないのか。
屈んで這うようにして壁を曲がった。
「あっ!!!」
声を上げ、そして慌てて口を塞いだ。
いた!
千尋先輩が横になって目を閉じて寝ていた。
寝ててもかっけぇ…。
ちょっと長い髪が広がっている。
横には缶コーヒーの空き缶。それにタバコの吸殻が刺さってた。
思わずじっと見惚れていると千尋先輩の睫毛が震えた。
「…きたか?」
「あ、う……は、いっ」
千尋先輩の切れ長の目が岳斗をじっと見たのに心臓がまた激しくドキドキしてくる。
「き、昨日、は…すみません、でしたっ!」
「…別に」
いえ、イロイロと…。
夜に思い浮かべてしまった事まで思い出して冷や汗が流れそうだ。
千尋先輩が身体を起こして壁に背中を寄り掛けるのに岳斗も隣で同じように座った。
「…何?弁当食ってないのか?」
「え、と…はい…」
食えば、と言わんばかりに千尋先輩が顎をしゃくったのでそろそろと岳斗は膝の上に弁当を広げる。
「千尋先輩は?」
「パン食った」
パンだけ~?
岳斗だったら絶対足りない!岳斗よりも千尋先輩の方が身体も大きいのに!
岳斗は結構大きめの弁当箱でおかずを多めに入れてもらっている。
「はい」
岳斗は箸で摘んで入っていたミートボールを千尋先輩の口の前に差し出した。
それに千尋先輩が目を剥く。
あ……。
何も考えないで差し出しちゃったけど、そんな仲いいわけでもないのにコレはないか!
どうしよう、と差し出した手を引っ込めることも出来ないまま岳斗はたらりと汗が流れた。
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