「…ヘンな奴」
そう言ってぱくんと千尋先輩が岳斗の箸からミートボールを食べた。
か、か、かわ、いぃ……。
でも口の端についたソースを親指で拭っているのはエロい…。
ふるふると岳斗は身体を震わせて悶絶しそうだった。
「…はい」
今度はウィンナー。
それもぱくっと…。
弁当持ってきてよかった!!!!自分!!!と心の中で岳斗はガッツポーズする。
「…お前の分なくなるだろ。いいから」
そう言って千尋先輩が胸からマルボロの煙草を出して一本咥え火をつけた。
ふぅっと煙を吐き出す。
かっけぇ~~~~~~……
目の前の千尋先輩に岳斗はもう昇天しそうな勢いだった。
あ……。
いい、と言われて自分の弁当を食おうとしたけど、今、この箸を千尋先輩咥えたんだ…、と思わず固まってしまう。
俺、口つけていいのか!?
いや、普通そんなの男同士なら気にもしないだろうけど。
ええい、とその箸で弁当を食べる。
「お前、名前は?」
「え…?ああ、と…長谷川 岳斗、です。山岳の岳に北斗七星の斗」
「岳斗、ね」
名前呼び!!!
うわ、もしかして名前覚えてもらえるの?
じっと千尋先輩が岳斗を見ているのにいたたまれなくなって今度は肉巻きをはい、と差し出すとそれもぱくっと食いついた。
どうしよう!可愛すぎるんですけど!!!
あの千尋先輩が俺の弁当のおかずをぱくんって!
「お前、ここ誰にも言ってねぇ?」
「ナイです!」
「昨日50’sで会ったのは?」
「言ってないです!」
言いたかったけど!本当は谷村に電話して言ってしまいたかったんだけど結局我慢した。
自分だけの特別な事だから!誰にも知られたくもなかった。
「誰にも言うなよ?」
「い、わないっ!ですっ!」
よかった~~~!電話しなくて!電話持ったまではしたんだけど、結局やめたのだ。
「…お前、酒屋でバイトっていつから?」
「えと、昨日、から」
「……酒屋はマズイんじゃないのか?」
「え?そ、そう……?でも叔父さん家だから…。家も近いし。親も知ってるし」
「ふぅん」
タバコを吸い終わった千尋先輩がころりとまた横になった。
背中とか頭痛くないのかなぁ?と思わず心配になる。
「あそこで、練習、してる、んですか…?」
「ん?ああ。タダで貸してもらえるから」
「え、と……俺、また配達とか、で行っちゃうかも、だけど…いい、です、か?」
「喋らねぇなら構わねぇよ」
よかった!岳斗はほっと息を吐き出した。
喋らないなら、というならやっぱり知ってる人は少ないんだろうか?
嬉しい!
思わず顔がにやけてきてしまう。
その岳斗をじっと千尋先輩が見てた。
「え、と……?」
どきっとした。
横になっている千尋先輩にじっと見られてるのに。
「俺ほぼ毎日50’sにいるから」
「そ、うなん、ですか…?」
どういう事だろう?行っていいっていう事?
「バーテンのバイトしてるし、たまには飛び入りでベース弾く事もある」
「まっ!マジで!!!!!?」
思わずそこに岳斗が飛びついた。
千尋先輩の制服を掴んで思わず顔を近づけた。
「弾くの!?ベースっ!?ホント!?」
まじで!?ライブ行かなくても見られるの!?聴けるの!?
「…いつもじゃねぇけど」
行きたい!……けど、お店入るのにやっぱ金いるしなぁ…。ライブだけでもキツイっていうのに…。
ぱあっと顔を輝かせた後に思わずしゅんとしてしまうとそれに千尋先輩はすぐ気付いたらしい。
「演奏見るだけで席もとらねぇなら叔父貴に言っとくけど?」
「い、い、いい、…の?」
「…ココと50’sの口止め料」
「い、い…行きたいっ!……ですっ!」
意気込んで岳斗が言うと、くっと千尋先輩が口端で笑った。
うわあぁぁぁぁっ!!
笑った~~~~~!!!
千尋先輩が岳斗にだけ笑った!
かあっと顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かる。
「やっぱヘンな奴」
そう言って千尋先輩は目を閉じた。
俺だけもしかして特別!?
もしかしなくても、かなり特別!?
いや、ただ単にたまたま知っちゃったからだろうけど!
お昼に千尋先輩独り占めして、練習してる所に顔出してもよくて、…まぁこれは俺もバイトだからだけど、さらに千尋先輩のバイトの所に顔出していいなんて!
来るな、とも言われないんだから、いいんだ…よな?
どうしちゃったんだろう!?
昨日から俺の運気は人生最高か!?もしかして!!!
千尋先輩限定運気がきっと最高にMAXになってる!
また千尋先輩の制服掴んでいたのと近づいていたのに気付いて岳斗はそっと手を離した。
きっとこれ以上望んだら罰当たってしまう…。
岳斗はどきどきする心を落ち着かせる為に自分に言い聞かせた。
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