「こんにちは~…配達に来ました~」
そろりと岳斗はライブハウス<Since50’s>のドアを開けて店の中に入った。
昨日も届けに来たけど今日も50’sに配達があった。
「ああ、ごめんね?昨日一緒に頼めばよかったね。まだもつかなと思ったら昨日いっぱい出てなくなったんだよね」
千尋先輩の叔父さんは優しそうな感じ。
髭があってマスターって感じだ。
「いいえ~」
むしろ毎日でもあってくれた方がいい!
「え、と…千尋先輩、は…?」
「まだだね。もうそろそろ来るんじゃない?」
なんだまだか…残念。
お昼休みに会って話して、また会えるかと思ったのに…。
今日はLinxの練習もないのだろう。メンバーもいない。
「じゃまた来ますね!」
「はい、ご苦労さん」
ぺこんと頭を下げて店のドアを出ると狭い階段を上がっていく。
すると黒いバイクがブゥンと近づいてきた。
あ、昨日も止まってたバイクだ。
何気なしに目を惹かれて岳斗は足を止めた。
そしてやっぱり店の前にそのバイクが止まった。
「ち、ち、ち、ち、…千尋先輩っ!!?」
「ああ」
バイクから下りてフルフェイスのヘルメットを取り、髪をかき上げて出てきた顔は千尋先輩だった。
何したってどうしたってカッコよすぎるっ!!!
思わず岳斗はしゃがみ込んで頭を抱えてしまった。
「岳斗?どうした?」
しゃがみこんだ岳斗の肩に手を触れて千尋先輩が岳斗の名前を呼んだ。
な、名前っ!呼ばれたっ!
思わず顔を真っ赤にしてしゃがんだまま顔を上げ、千尋先輩を見上げた。
黒のライダースジャケットに革パンツ。黒のバイクに黒のベース。
タバコはマルボロで、低い響く声で、艶がある。
「岳斗?」
くっと笑みを含んだような甘い響きの千尋先輩の声で名前を呼ばれたら気が狂いそうだ。
「な、んでもないっ、ですっ!」
すくっと立ち上がるとふっと千尋先輩が鼻で笑った。
そして胸からマルボロを取り出して火をつける。
「配達?」
「はい」
かっけぇよぉ…!
もう目はハートマークになってるかもしれない。
いや、ずっとか?もしかして…。
「千尋先輩のバイク、なの…?」
「元は叔父貴の。ずっと放置してたのを貰った。だから古いぞ」
「え~!全然古くない!カッコイイ!!ピカピカだし!」
「…磨いたからな」
千尋先輩が表情を緩めた。バイクを誉められるのは好きらしい。
「これ、なんてバイクなの?」
「カワサキのゼファー」
「……バイクの名前もカッコイイね」
するとぷっと千尋先輩がふき出した。
「どうも」
「そっか…千尋先輩が一所懸命綺麗にしたんだ?すごい綺麗だもん!昨日も停まってたでしょ?カッコイイなぁ、綺麗だなって横目で見たけど。そうなんだ~」
岳斗はまじまじとバイクを見た。
メッキが光ってて全然古いなんて見えない。
しかしバイクなんて、千尋先輩に似合いすぎる!
「…お前はなんで俺が隠してる所ばっかに現れるんだ?」
「…え!?」
「屋上も50’sもバイクも知ってるのはバンドのメンバー位だ」
「え!!!?そ、そう……な、の?」
「ああ」
う~~~わ~~~~!!!
チョーーーーー嬉しいんですけどっ!
思わず岳斗は満面の笑みになってしまった。
「ヘンな顔」
千尋先輩が岳斗の頬に手を伸ばして頬っぺたを引っ張る。
「じゃあな。バイトだろ?」
「あっ!!!ヤバイ!まだ配達あるんだった!!!」
くくっと笑って千尋先輩はバイクにチェーンロックをかけるとじゃ、と手をあげて階段を下りて行ってしまった。
道草くってちゃダメだろ!
慌てて岳斗も走って店に戻る。
けれど顔はずっとにやけっぱなし。
おまけに…。
思わず千尋先輩に引っ張られた頬を自分で撫でた。
ここ洗いたくねぇ~~…。
あのベースを弾く手が自分の頬っぺたに触ったなんて信じられない。
どうしよう~~~!?
昨日よりもっと千尋先輩がカッコよく見える。
昨日よりもっと好きが増えてる。
もっともっと…。
だって箸で差し出したのをぱくっと食べるのが可愛くて。
笑った顔も可愛い。
ベース弾く時の笑みと種類が違う。
だって岳斗に笑ってくれたんだ!
「やばい~やばい~」
どうしよう…。止まらなくなっちゃいそうだよ…。
「千尋先輩…」
小さく呼んでみた。
テーマ : 自作BL小説
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