千尋先輩の番号とメアド…。
うわぁ、と自分の携帯の中に入った<篠崎 千尋先輩>の文字表示に顔が紅潮してくる。
それが宝物のように感じられる。
バイク乗せてもらって、携帯教えてもらえて、今日もまた特別になった。
でも、そういえば…。
「あの、千尋先輩…?」
「なんだ?」
「あの…俺…ライブ、行ってよかった……?」
「は?」
千尋先輩の煙草を持っている手がぴたっと動きを止めた。
「だって……その、教えて…もらって、なかった、から…」
岳斗が顔を俯けながら小さく呟くと千尋先輩がばーか、と言いながら岳斗の髪をぐしゃっと撫でた。
「……今度からはちゃんと教える」
「…うんっ」
ぐしゃっとされたのが嬉しくて千尋先輩の手が離れた後、岳斗は自分でも髪に触った。
「あ、あと……!」
「ん?」
「あの…また、バイク、…乗せて…?」
図々しい、かな…?
「…ああ」
ふ、っと千尋先輩が目を細くして岳斗を見ていた。
煙草を吸い終え、千尋先輩がヘルメットを岳斗に貸してくれていた方のフルフェイスのに変え、被る。
もう別れる時間だ。
もっと一緒にいたい…。
千尋先輩の服を掴みたい衝動に駆られるけれどまさかそんな事も出来ないし…。
「岳斗」
千尋先輩がバイクに跨って岳斗を呼んだのにバイクの傍に近づいた。
夜でもバイクは綺麗でぴかぴかに見える。
黒のバイクに黒のライダース、ベースも黒だ。
カッコイイ、なぁ…。
ぽわんとしたまま岳斗はバイクの脇に立った。
そしたら千尋先輩が手を伸ばしてきて岳斗の頬に触れてきた。
な、な、何…っ???
さわりと撫でられるのにぎゅっと目を閉じて、そしてどきどきが激しくなってくる。
つっと唇を指でなぞられてから千尋先輩の手が静かに離れた。
火が出そうな位顔が熱い!
でも千尋先輩は何もなかったように外していた革手袋をつけていた。
「じゃあ」
「え!?あっ!…はいっ!あの…ありがとう、ございまし、た!オヤスミな…さいっ!!」
声が上擦るし、変な所で言葉は切れるし、顔は熱いし、心臓はうるさいしっ!
その岳斗に千尋先輩がぷっと笑ったように見えたけど、ヘルメットの下で表情がよくわからない。
エンジンをかけると手を上げてさっと千尋先輩は行ってしまう。
ベースのカバーも黒で、黒づくめだ。
バイクで走り去る千尋先輩の後姿を岳斗は見送った。
その背中に今はベースを背負っているけど翼があるんだ。
それは黒じゃなくて真っ白な大きな翼。
今はまだ広げられてない翼だ。
純白の光り輝くそれはきっといつか大きく広がる気がする。
なんでこんな事思うのかなぁ?と自分でも不思議だけど。
見た目から言ったらきっと黒の方が似合う、と多分他の人は言うかもしれないけど岳斗からしたら絶対に白い翼だと思う。
…変なの。
でも必ず演奏してる所を見てるとそう見えてくるんだから仕方ない。
それにしても…。
最後のはナニ?
頬っぺた撫でられて唇を触られた。
別に今日は何も食べてないしソースついてるとかないはず。
きゅうっと心臓が音を立てそうなくらいに苦しく感じる。
「…千尋先輩…」
そう小さく名前を呼んで手に持っていた携帯を慌てて見た。
夢じゃないよね?
千尋先輩の名前を表示させ、ちゃんと中に番号が入っているのを確認した。
千尋先輩の携帯の番号とメアド…。
まさか千尋先輩から携帯の番号、なんて言われると思ってもなかった。
自慢したい~~~~!!!
でも言わない!
自分の中だけに大事にしまっておく。
千尋先輩との事は全部。
バイクに乗せてもらったのも、ライブで目が合ったのも、待っとけ、なんて口パクで言ってもらえて…。
もう今日の事思い出すだけで全部が岳斗を喜ばせる事だけだ。
「……やばいよぉ」
革手袋をつけてるとこもカッコイイ。
ベースを弾いてるとこなんて言わなくてももう当然!
演奏してる時はもうカッコイイを通り越してさらにエロい感じにもみえてくるし。
ただ歩くだけでも人目を惹いてしまうし!
ほんともう、何したってカッコイイにしか見えなくて。
声は低くて響いて甘く耳を擽る。
岳斗、なんて名前を呼ばれて、千尋先輩の手が岳斗の頬に触られたらもうどうしていいか分からなくなる。
今日は髪に、顎にも触れられた。岳斗の手は千尋先輩のベルトに掴まって抱きつくように身体を密着させてた。
きっと千尋先輩はいつも屋上で岳斗の足を枕代わりにしてるから、だから触れるのもなんでもない事なんだ。
だって普通頬っぺたとか触らねぇよな…?
悶えそうになりながら岳斗は走って家に帰って行った。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学