家に帰ってきてからも散々迷って迷って迷った。
何度も確認するようにくっと笑いながら千尋先輩が送れよ?と言ってきた。お店にお客さんが増えてきたので岳斗が帰ると言った時も一緒に外まで出てきてくれて、それで送れよ?と笑われながら言われたのだった。
携帯を開けて眺めれば千尋先輩がいるのに顔はにやける。
自分で見てる分はいいけど…。
どうせ自分の顔なんて見ないし。
でもコレをメールで送るのヤダくね?
この自分の情けない顔が千尋先輩の携帯に入るの?
「う~~~……」
散々迷って件名に<笑ってくださいっ!>と入れて写メを送った。
どうせ少し位まともな顔したって情けないのには変わりないんだからもういいや!と自棄になる。
すると少しして返信メールが返ってきたのにうわっ!と心臓が飛び跳ねた!
返事が返ってくるのを想定してなかった!
ドキドキしながら開けてみると
笑わせてもらう、と一言入ってて返事は嬉しいけどかなり複雑でがっくりしてしまう。
<勉強するけど…もし分からないトコあったら、電話してもいい、ですか?>
ちょっと図々しいお願いをしてみた。
送信…。ドキドキして手に携帯を握り締めたまま待った。
するとすぐに携帯が震えた。
<いつでも>
うわぁ…と携帯を持って喜んでしまった。電話で声聞けんの?
だってホントは声が聞きたい。
でも電話で名前なんか呼ばれたらヤバイかも…。
<今日はもう寝るけど…おやすみなさい>
<オヤスミ>
すぐに返ってくるメールに悶えてしまう。
凄い!千尋先輩とメールしてる。
千尋先輩は何処にいるんだろ?家?
時計をみれば多分もう50’sは終わってる時間だろうとは思うけれど。
そういえば家って何処なんだろう?聞いた事もなかった。
千尋先輩はあんまり喋らないから全然千尋先輩の事は知らない。
岳斗はいつも余計な事まで喋っているけど。
知っている事は岳斗が見てきた千尋先輩の事だけだ。
でもいい…。
だって一つずつ好きが増えていく。
知っていく事が増えていく。
最初なんて顔も知られてなかったのに。
今は携帯に千尋先輩と一緒に撮った写メが入ってるんだから。
岳斗がよっぽどもの欲しそうにしてたんだろうか?
…というか、それを知っててこんな写メ撮るって一体千尋先輩は何をどう思ってんの!?
いや、きっと懐かれてる後輩、しかないだろうけど。ちょっと千尋先輩の隠し事を多く知りすぎてる、というのがくっ付くから岳斗を無碍に出来ないだけだと思うけど。
いいんだ。とにかく岳斗は千尋先輩が大好きなのだから。
「…千尋先輩…大好きだよ…」
ぎゃ~と一人で悶える。
家で一人だったら言えるのに!
だから、どうして会うかな…。
たらたらと岳斗は冷や汗が流れた。
「よう、岳斗」
「お、はようございま、す…」
登校の途中で会ったのはギターの井上 尚先輩だった。
「ええと…井上、先輩」
「尚でいいよ」
ポンと岳斗の肩を叩いて並んでくるのにやめて~!と泣きたくなる。
Linxのメンバーは学校では誰でも知ってる有名人なのに~。
周囲の生徒がアレ誰?と岳斗を見てるのが分かる。
「……尚、先輩」
じとっと岳斗は下から尚を睨んだ。
Linxのメンバーは皆背も高くてカッコイイんだ。その中でも千尋先輩は特別カッコイイんだけど。
「……いいな、それ」
尚先輩がにっと笑ってご機嫌の声を上げた。
「ん~…千尋が傍に置くの分かるなぁ…」
「ちょ、ちょっ!しっ!」
「え~?……岳斗クンはなんでそんな千尋ばっか大好きなのかな?」
ふっと岳斗の耳に口を近づけ、息を吹きかけながら小さく尚先輩にそんな事を言われて岳斗は顔を真っ赤にした。
「な、なっ…」
「ホント分かりやす~~」
ぷっと笑われる。
「ふぅん…可愛いねぇ…千尋から取っちゃおうかなぁ?可愛い後輩クンもいいなぁ」
あはは、と笑いながら尚先輩が歩いて先に行ったのにはぁ~~~と岳斗は大きく溜息を吐き出した。
教室に行ったら皆に尚先輩の知り合いっ!?と囲まれた。
女子の顔が怖い。紹介してっ!と誰にも彼にも言われて違う!と岳斗は否定したけれど、学年の違う2年生で気軽にLinxのメンバーと話せる人なんかいなくて、ずっと休み時間も拘束されっぱなしになってしまった。
これで人目盗んで屋上になんて行けない。
岳斗は屋上に今日は行けなくなった、と千尋先輩にメールすると一言、分かった、とだけ返ってくる。
おまけにやっと学校を終わってバイトに行ったら50’sの配達もなしで結局千尋先輩とこの日は一日会えなかった。
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