「岳斗、教科書ノートは持ってるか?」
「え?…数Ⅱと英語なら…」
「出せ」
それから思わず勉強タイム。
岳斗の不安な箇所を教えてもらって。
やっぱり千尋先輩は頭がいいみたいだ。すらすらと岳斗の分からない所も教えてくれる。
それはいい、んだけど…。
千尋先輩の机に岳斗が座らされて、そしてその後ろに立つ千尋先輩の教えてくれる声が耳に響いてドキドキしてしまって仕方ない。
だって近いんだもん!
わざとやってる?と思って横にある間近なカッコイイ千尋先輩の顔を見れば真っ赤になってしまうし!
すると千尋先輩は岳斗を見てくっと笑うんだ。
やっぱからかってるんだ!
…っていうかモロバレですか!?
尚先輩にも千尋先輩を大好き言われて…。
だから!これを一体千尋先輩は何て思ってんだろ!?
頭がぐるぐるしてくるけど次、と問題を提示されるのに結局ぐるぐるばっかもしてられなくて数字に格闘する。
「やぁっ!もう頭パンクする!」
「お前、分かってなくないけど…応用が決定的にダメだな」
呆れたように言って千尋先輩が笑うと、窓を開けて煙草を取り出す。
そういえば部屋が千尋先輩の匂いがする。
そういえばなぜか千尋先輩の部屋にいるんだ。
学校出て電話で…。
昨日から会えなかったから…?
…なんて、岳斗に都合よすぎる考えだ。
「ねぇ、本当に解散…?」
「ん?ああ」
「…そっか……」
そんな噂はまだ聞こえてこないからきっと知ってるのはメンバーと一部の人しか知らない事なのだろう。それを教えてもらえたんだから岳斗の事を千尋先輩は信用はしてくれているんだ。
靴が乾いて、そして千尋先輩が50’sに行くのにバイクの後ろに乗せてもらって家まで送ってもらった。
制服だと目立つから、と上に千尋先輩のMA-1を貸してもらえばぶかぶかでそれにも千尋先輩がくくっと笑ってた。
2回目のバイクの後ろは千尋先輩のMA-1に染み込んだタバコと先輩の匂いに包まれた。
千尋先輩は岳斗を降ろしてそのまま50’sへ。
MA-1は貸しとくから、と言われて岳斗の部屋にある。
眺めては顔がにやけ、意味もないのに着てみてはぶかぶかさに笑い、そして切なくなる。
「何?昨日千尋と会ったの?」
尚先輩がまた朝近づいてきた。
でもつーんとして岳斗は答えなかった。
「…被害って?」
「………靴濡らされてた。ぐしょぐしょだった」
それは尚先輩のせいでもあると思うから訴える。
「もうさせねぇから」
え?
隣に立つ尚先輩を見た。
「ちゃんと釘刺しとく。…どうせアイツ等だろ」
尚先輩も分かっているらしい。
「……アリガト、ゴザイマス…」
「…………お前、やっぱカワイイな」
はぁ?
尚先輩がくくっと笑った。そしてちょっと情けない顔をする。
「でも千尋なんだよな…」
呟かれて岳斗はかっとして俯いた。
「今日は?Linx練習あっけど?」
「…バイト」
「なんだ、残念」
尚先輩も何考えてるか分からない。
そして先に歩いていってしまった。
「よう!」
「あ、はよ」
声をかけてきたのは一緒にライブに行く谷村だった。
「何?いつの間に尚先輩と仲良くなったの?いいけど千尋先輩から鞍替え?」
「してねーし!」
「あ、まだ千尋先輩なのね」
ぷっと谷村が笑った。
「何?千尋先輩でも紹介してもらうの?」
「そんなんじゃねぇもん!」
そもそも仲良くなったのは千尋先輩のほうが先だもん!
……隠れてだからそうは見えないけど…。
千尋先輩の携帯知ってるし!バイク乗せてもらったし!昨日なんて家まで行ったし!
……なんて言わないけど!
「ああ!どこかで見たと思ったら谷村と一緒にライブに来てた子か」
「あ、タカ先輩!はよっす!」
げ~~~!今度はボーカルの森 孝明先輩の登場だ。
もう、やめて欲しいんだけど…。
だらだらと岳斗は冷や汗が流れる。
その上ドラムの人まで出てこねぇよな?と思いながら岳斗はきょろりと周りを見渡した。
「谷村、また今度のチケット、な」
「はいっ!分かってます!」
今度…。千尋先輩が最後って言った。
じっとボーカルの人を見たら黙ってろ、と人差し指を口に持っていくのに岳斗はこくんと頷いた。
岳斗が聞いてるのを知っているらしい。
「じゃ、よろしく」
そう言って先に行ってしまったのに岳斗はほっとした。
「……長谷川、お前Linxホイホイになったの?」
「なってねぇよっ!」
なんだそりゃ!!!
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