練習を終えて片付け始めるLinxだけど、岳斗はまだぼうっとして意識を半分飛ばしていた。
「岳斗」
「へ?」
「手伝え」
呼ばれたのは尚先輩で、え~!って感じだったけど、仕方ないのでステージに上がる。
「ナニ?そんなに最後の曲よかったんだ?」
「いい!……ギターもガチャガチャしてなくてよかった」
「……失礼な奴だな」
言われてやんの!とボーカルが笑ってる。
シールド巻くのを手伝って巻き終えると今度は千尋先輩に呼ばれた。
「岳斗」
どきんとしながら千尋先輩の方に近づく。
何かな?と首を傾げるけど特に用事はないらしい。
「そこいろ」
「……うん」
邪魔するなって事か。
そういやキス以来会うの初めてじゃん!と急に恥ずかしくなってきたけど、千尋先輩は全然普通。
まぁ、千尋先輩にしたらそうかもしれないけど、キスが初めてだった岳斗にしたら死にそうな位にドキドキしたのに。
そういえば曲、千尋先輩が作ったのかな?ほとんどは、って言ってたからそうだろうけど、詞は?
目が合ったので聞きたいな、と思って口を開こうとしたら千尋先輩が視線を逸らしたのに岳斗はしゅんとして聞くのをやめた。
「岳斗、あっち行ってろ」
「……うん…、…はい…」
あっちはスタッフルームの方。ステージを下りて千尋先輩の叔父さんがいるだろうスタッフルームに向かう。
「…千尋、マジなのか?」
「だろうよ!曲がアレだし」
ボーカルのタカ先輩と尚先輩の声。
「音楽って恥ずかしいよな」
ドラムのコウ先輩の声。
「…うるさい」
岳斗の後ろから聞こえてきた会話。やっぱり曲は千尋先輩が作ったんだろうけど。
なんだろ…?
スタッフルームに行って黒のソファに座った。
「どうしたの?」
「え?千尋先輩にあっち行ってろって言われた」
叔父さんに聞かれて岳斗が答えると叔父さんがそう、と笑った。
「岳斗くん、千尋に何か言った?」
「何かって?」
叔父さんがウーロン茶を出してくれてありがとうございますと岳斗はにこにこと受け取った。
「ベースの事」
「ベース?……いつも割と言ってる、と思うけど…」
「いや、プロに、とか…」
「あ!言った、…です。だって、千尋先輩はなるべき、でしょ?」
すると叔父さんがびっくりしたように岳斗を見て、そして笑った。
「岳斗くんはそう思うんだ?」
「え…?千尋先輩の叔父さんはそう思わない…?」
「いや、千尋は凄い、とは思うよ。でもホラ身内の目もあるかな?とも思うし」
「ないない!千尋先輩凄いもん!…いっつも俺、千尋先輩ばっか見ちゃうんだ!他の人のにはそうならないのに!」
「そう…?」
千尋先輩の叔父さんが嬉しそうにするのに岳斗が力強く頷く。
「……岳斗。皆帰ったから」
スタッフルームに顔を出した千尋先輩にこっち来い、と呼ばれて岳斗はすぐにソファから下りてホールの方に行った。
別に何かがダメって事じゃなかったのかな…?
千尋先輩はまだベースを片付けてなくてステージに座ってアンプは通してないけど爪弾いている。
その横に岳斗もちょこんと座った。
キスして初めて会うんですけど?
でも千尋先輩はそんな事あったっけ?位の事なんだろう。…きっと。
「……岳斗、曲、よかった?」
「…うん、凄く、よかった。……全部。俺、感動して泣いたのなんて初めて…」
「…ふぅん」
アレ?照れてる、かな?あんま分かんねぇ、けど…。
「ね、最後の曲、作ったの千尋先輩?」
「…ああ」
「…詞は?」
「……俺」
「…………すご~くよかった!なんか曲も詞もアレンジも全部が一つになってる感じ。ベースのラインもすごく綺麗だった。それに、なんか…」
…千尋先輩がベースを抱くように弾いてる感じ、って言いたかったけど、恥かしくて言えねぇ…。
「なんか…何?」
「えと、あ、いや…」
わたわたと岳斗が慌てると千尋先輩が岳斗をじっと見ていた。
「抱かれてる、感じ?」
「ぁっ!……う…………はい」
小さくなってか~っと耳まで熱くなりながら答えればくっと千尋先輩が笑った。
「そういう風に弾いたから」
満足そうな千尋先輩の顔。
こっちは恥かしくて恥かしくて仕方ないのに!
「……曲名は?」
「………決めてない」
なんだ、とちょっとがっくりする。
ベースの静かに響く音。その横にいられるのが嬉しい。
好きだなぁ…。
ぽうっとしてついじっと見てしまう。
「…尚とは…」
「え?尚先輩?」
尚先輩の名前に岳斗は思い切り嫌そうな顔になって顰め面になるのが自分でも分かった。
名前だけでも拒否反応してしまいそうだった。
すると千尋先輩が岳斗のその顔を見ていきなり声を立てて笑い出した。
「なんだ、その顔…」
「だって…」
思わずいきなり笑われて口を尖らせると千尋先輩が手を伸ばして岳斗の頭をぐしゃっとした。
「だから!髪ぐしゃぐしゃになっちゃうってば!」
くくっと千尋先輩が笑ってた。
テーマ : 自作BL小説
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