ラブバラード…。
曲作る時やっぱ誰かを思い浮かべるのかな?
日曜日。岳斗は自分の部屋でベッドに横になりながら昨日の曲の事を思い出していた。
そういや彼女いるの?って聞いた事ないや…。
岳斗が会ってた範囲では千尋先輩に女の人から電話はかかってきたことなかったし、50’sでも学校でも特定の人は見ていない。
いつも誰か千尋先輩にくっ付いてはいるけど…。
でもそういえば最近千尋先輩が学校で誰かを腕に絡ませてる所を見なくなった。
日曜日は50’sも休みなはず。千尋先輩は何してるんだろう?
なんかただベッドで横になってるなんてツマンナイ。
…出かけよ。
岳斗はバイト代も入ったし!とちょっと何か小物でも見てこよう!と出かける事にした。
電車でデパートや店が並ぶ地区へ。
ふらりと歩いていると小さな店が目に入った。
Tシャツがガラスを通していっぱいぶら下がっている。
その中の一つに目を引かれた。
バックプリントで真ん中に十字架。そして翼が描かれてた。
千尋先輩は胸にネックレスを下げてる。革とシルバーの。その両方共十字架だ。
いつも。
何か意味あるのかなぁ?とも思ったけど聞いた事ない。
その十字架に翼って…しかも広がってない翼。
なんか今の千尋先輩みたいだ。
岳斗は惹きつけられてその店に入っていった。
「すみません、あのTシャツ見たいんですけど」
ガラス越しにかかっていたのは赤だったけど、その色違いで黒もあった。
黒に白い翼。
値段を見たら4,980円。
う~~~~~………!でも欲しい!
自分にじゃない。
「…コレのXLってありますか?」
なかったら諦める!
…でもあるし!ラストで後入ってこないという店員の言葉につい買ってしまった。しかもプレゼント仕様で!
……買ったものの、どうすんだよコレ、と自分でも頭を抱えたくなる。
翼なんて岳斗が勝手に思ってるイメージなのに。
十字架だけだったらいいかもしれないけど…。
早まったか!とも思うけど、やっぱりコレがいい。
千尋先輩の誕生日いつかな…?
誕生日プレゼントで渡したらおかしくないよな?
今度聞いてみよう!
でもいらねぇ、とか言われたらどうしよう…。
買ったものは仕方ない!
…しかし、金もイタイけど、自分もイタイ気がする。
ふるふると頭を振って店を出た。
もう金は使えないし、帰ろうっと…と大人しく駅に向かう。
「岳斗っ!」
え?と名前を呼ばれて振り返ったら尚先輩だ。
嘘だろ…なんで?とがっくりする。
千尋先輩ならいいのに!なんで休みの日まで尚先輩!?
「偶然~~~!」
「…そうですね。でももう俺帰るとこです」
「何買ったんだ?」
「……なんでもいいでしょ」
尚先輩は一人らしい。そして岳斗の買った物の袋を覗き込んだ。
「それ、あそこのショップだろ?プレゼント、ねぇ」
「違いますっ!」
「千尋にぃ?」
にやにやしながら尚先輩が聞いて来た。
「違うっ!」
「残念~!千尋、誕生日もう終わってるけど?」
「え!!そうなのっ!?」
「確か4月」
またガックリだ…。
「…やっぱ千尋なんだ?」
「違いますっ!」
尚先輩が岳斗の肩を組んでくる。
「……なんでそんなに千尋がいいんだ?」
「…だからっ!意味分かんない!」
「分かんなくねぇだろ。俺にしねぇ?」
「しない!」
「なんだよ…。折角言ってるのに」
「頼んでないもん!」
俺は嫌だ、って言ってるのに!
「っ!!」
組まれた肩をぐいと引かれて通りの往来でキスされた。
岳斗は驚いて思わずどん、と尚先輩の身体を押した。そして袖口で自分の口を押さえる。
「なんだ?キスくらいなんてことねぇだろ?」
「し、んじ…られな、い…っ!」
嘘だ!なんで?
「千尋にはもうされてるだろ?曲がアレだし。アイツ、手ぇ早いし」
やだっ!
顔が歪んでくる。
そこを後ずさって岳斗は走り出した。
なんで!
こんな事…。
走りながら唇を袖で拭う。
汚い!汚い!
ついでに涙まで出てくる。
泣くな。みっともない。
通り過ぎる人が岳斗を驚いたように見ている。
細い路地に入ってしゃがみ込んだ。
唇を何回もごしごしと一所懸命拭ったってその感触が残ってる。
いやだ、汚い…。
「千尋先輩……」
泣きながら携帯を出して電話をかけていた。
『岳斗?どうした?』
「ち、ひろ…せん、ぱい……」
うくっ、と嗚咽が交じってしまう。
『岳斗!?どうした!?』
千尋先輩の声に名前しか呼べない。何度も呼んだ。
『今どこにいる?』
「わ、かんない…細い道……」
道の説明をどうにかして電話を切った。
行くから待っとけ、って。
でも千尋先輩が来たら何て説明すりゃいいの?
しゃがみ込んだまま岳斗はずっと唇が腫れるくらいごしごしと拭いながら嗚咽を漏らしていた。
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