ただいま~と岳斗は家に入ってばたばたと階段を登り、自分の部屋のベッドに突っ伏した。
途中で真由にうるさ~い!なんて言われたけど気にしない。
だって…!
千尋先輩、がっ!
いや、その前に尚先輩が!
でも千尋先輩普通でっ!
なんか考える事がぐるぐる回ってる。
とりあえず尚先輩は、コレはショックなだけだったから置いといて!
問題は千尋先輩だ!
なんで…?キス…?
しかも、あんな濃厚、なの…。
唇に、口にまだ千尋先輩の感覚が残ってる。
か~~~~っと顔が熱くなってきて思わず岳斗は顔を押さえた。
どうしようッ!!!
ベッドで悶える。
唇を押さえて、でもそこかしこに千尋先輩の色が濃く残っている。
抱きしめられたのも、腕を掴まれたのも、唇も、腰も、頭を押さえられたのも。
岳斗の身体全部が千尋先輩でいっぱいだ。
微香が残っている気がする。
顔が、身体が熱い。
「千尋先輩~……」
小さく名前を呼んだ。
なんで…あんなキス…。
岳斗はこの間の掠めるようなキスだけでも動揺して大変だったけど千尋先輩は全然普通で、そういえば尚先輩だって言ってた。
キス位なんでもないだろって…。
千尋先輩は手が早いからキス位されてるだろって…。
いつも女子に囲まれてるあの人達にしたらキスなんてなんでもない事…?
尚先輩もふざけてしただけで、千尋先輩は岳斗を慰めただけ?
でも女子にならまだ分かるけど、なんで男の俺?
「わっかんねぇ…よ」
岳斗は苦しい位千尋先輩が好きだ。
だから尚先輩にされたのが嫌だったし、千尋先輩にされたのは嬉しい。
でもその二人はいたってなんて事ナイ態度だ。
キスも何も経験がないお子チャマな岳斗にしたらトンデモナイ事だけど、きっとあの二人はなんでもない事。
それに一人で動揺しまくってるだけなんだ。
「……だよなぁ」
ベッドに突っ伏してくぐもった声を漏らした。
「おはよう」
「…はよ」
電車を下りたら谷村と一緒になった。
「どうした?目赤くね?」
「うん。ちょっと。なんでもねぇけど」
目が腫れぼったい。結局夜も色々思い出してやるせなくなって泣いてしまったりを繰り返してしまった。
「ふぅん」
谷村はいつも余計な事を言ったり聞いたりしないから助かる。
やっぱコイツ付き合いやすいな、と岳斗はほっとした。
「はよ」
聞き覚えた声に岳斗はびくっとして思わず聞こえた側から谷村の脇に隠れるように移動した。
そして尚先輩を伺う様に見る。
「あ……?そ、の…顔……」
谷村も尚先輩の顔を見て口を開けて驚いていた。
尚先輩の口の端が切れて紫色の痣を作っていた。
「千尋にやられた。あ、違う…ぶつけたんだ」
尚先輩が口端を押さえて苦笑した。
「千尋先輩、に…?」
「ちげぇよ?」
くくっと尚先輩は笑ったけど、ぶつけたは嘘だろう。
昨日岳斗を送った後…?
その時に岳斗のポケットの中で携帯が震えた。
なんだろう?と思ったらその千尋先輩からメールだった。
<体育館脇の校舎との間の通路にいるから学校来てるなら来い>
岳斗はそれを見て先に行ってるね、と谷村に手を振って走っていった。
体育館の方は校門から離れているし確かに登校時なら人はいないかも。
息急いて走ってドキドキしながら岳斗は体育館の方に向かった。
「千尋先輩っ」
朝から千尋先輩に会えた。
「岳斗」
千尋先輩は通路で体育館に寄りかかって岳斗を待っていてくれた。
そして岳斗を見るとすぐに顎を掴んで上を向けさせ顔を見ると眉間に皺を寄せる。
「腫れぼったいな…。泣いたか…?」
「………」
この顔で泣いてないとは言えなくて思わず岳斗は黙ってしまう。
「もっと殴っておけばよかったか…?」
ぼそりと呟く不穏な言葉にあっ!と岳斗は慌てて千尋先輩の手を取った。
「あんな紫色なるまで!千尋先輩の手!なんともない…?大丈夫?」
しげしげと千尋先輩の大きな手を取って見たけれど赤くもなっていないし見た所はなんでもなさそうなのにほっとした。
「別になんともない」
「よかった…。ダメだよ!千尋先輩の手大事なんだから…」
見上げてそう言うと千尋先輩が驚いた顔をする。
そしてくっと笑い、岳斗の頭を撫でた。
「尚と会ったのか?」
「…うん、今さっき」
千尋先輩が手を伸ばし岳斗の腫れぼったい瞼を撫でた。
だから!なんでこんな事するのかな…?
ぎゅっと心臓が苦しくなる。
そして抱きつきたくなってしまうんだ。
「…やっぱ一発で足んねぇな…」
「千尋先輩っ!ダメ!」
だって夜泣いたのは千尋先輩のせいだ。
…千尋先輩が分からないから。
それなのにまたそんな事言うんだから…。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学