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熱視線 譚詩曲~バラード~1

 「明羅、起きられるか…?」
 怜の声に明羅はそろそろと目を開けた。
 「…怜さん、お、はよ…」
 目の前の怜の顔に思わず笑みが出たが声が掠れている。そしてうっ、っと声を上げた。
 「…大丈夫か…?」
 怜が心配そうな顔をする。
 身体がみしみしする。後ろにはまだ何か挟まっている感じがするし、身体はかなり重い。
 「傷にはなっていなかったが…」
 怜が明羅にちょんとキスする。
 「き、傷…って…」
 顔が熱くなってきた。
 思い出した。そうだ、怜さんに…。
 恥かしくてわたわたと明羅は挙動不審になった。それを怜がくすくすと笑う。
 「ごめんな。お前が辛いのは分かっていたが…止められなくて」
 明羅はふるふると頭を振りながらタオルケットを引き上げて隠れた。
 だって、嬉しかった。
 「立てるか?」
 どうだろう?
 甘えてもいいのかな?
 小さく明羅は首を振った。
 怜の顔は見れなくてすっぽりとタオルケットに頭まで隠す。
 怜はくすりと笑った。
 そのタオルケットをはぎ取られて真っ裸を怜の目に晒される。
 「や、…」
 怜はすでに着替えてるのに、自分は…。
 恥かしくてもうどうしていいか分からなくなる。
 だが怜は明羅にささっとTシャツを着せてハーフパンツを穿かせてくれた。
 小さい子供みたいだが、服を着たのにほっとする。
 「ん~~…」 
 怜が明羅を見て唸っていた。
 「な、何…?」
 「いや」
 怜は明羅の身体をそっと小さい子を抱き上げるように、肩にかけるようにして抱き上げた。
 「んっ!」
 思わず力が入って、鈍痛に声が出た。
 よしよしと怜の手があやすように明羅の背を撫でたのにまたそれが甘く感じて明羅は怜に顔を埋めた。

 「れ、れ、怜さんっ!?」
 担がれてリビングに来れば何故かそこに宗の姿があって明羅は固まった。
 何故?なんで?
 頭がぐるぐるする。
 だらだらと汗が背中を伝う。
 「座ってろ」
 怜はそっと明羅の身体をソファにやさしく下ろした。
 「あ、食われたんだ?」
 くっと宗が笑いながら言ったのに対し、明羅は表情を出さないようにした。
 動揺しないように!
 しかし宗が来てることを言わない怜さんもどうかと思う、と明羅は恨めしそうに怜を見た。
 その怜の目は笑っていて嬉しそうなのに明羅は脱力する。
 目尻が下がってると言ってもいい。
 いつもは涼やかな目元なのに、今は蕩けそうになっている。
 何言ってもだめそうなのに明羅はふっと小さく嘆息した。
 その宗の目も怜を見て呆れていた。
 「………ばか?」
 「……なんとでも言え」
 ふんと鼻息をもらして怜が宗に答えていた。
 「来た事もないのになんでこんな時に限って来るんだか」
 宗が肩を竦めた。
 「……一体何の用?」
 明羅は平静を装い宗を見た。
 その宗はちらと明羅を見た後、怜を見た。
 「親父が桐生の事を調べているらしい」
 びくりと怜の身体が揺れて表情を一変させると宗に視線を向けた。
 「……どういう事だ?」
 「俺が付き纏っていたのと、そこに兄貴が姿をみせたのが…かな」
 じろりと怜が宗を睨んだ。
 「余計な事を」
 「……そこは謝る。まさか親父が興味持つとは思わなかった」
 宗が素直に小さく頭を下げた。
 明羅はそれを見て宗は怜の事を嫌っているわけではないだろうか?と首を捻った。
 夏休みの時は突っかかってきた感じだったのに今はそうは見えない。
 わけが分からない、と怜と宗を見比べる。
 「…桐生だから、気に入らない、って事はないとは思うけど、一応」
 明羅だから?どういう意味だろう?
 怜が溜息を吐き出しながら明羅を見る。
 「まぁ…桐生佐和子の息子だしな」
 明羅は怜と宗に凝視されてちょっと落ち着かなくなる。
 そしてその二人が似てないと思ってたのに並ぶとやっぱりどことなく似ているのに気付く。
 ちょっと声と喋り方にどきっとした事はあったけど…。
 それにしても二人のお父さん…。
 間違いなくかっこいいだろう、と思ってしまう。
 だけど怜さんと恋人になって、それでお父さんに会うのはちょっと遠慮したい。
 少しだけ不安になってそっと怜の服をつかんだ。
 怜はすぐに気付いて、大丈夫だと言わんばかりに明羅の背をそっとあやす。
 それが面映くて明羅が仄かに顔を緩ませれば、宗がまじまじと見ていた。
 「……本当、別人だな」
 自分の事か、と明羅はすっと表情を冷たく宗を見た。
 
 
 

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