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傷ついている翼。 6

 学校、バイト、バイトがない日は50’sで千尋先輩と会って。
 その繰り返し。
 アレ以降は特に何もなくて。
 やっぱり千尋先輩も尚先輩もなんでもない事だったんだ、と拍子抜けしてしまう。
 それでも尚先輩にはどうしても構えてしまうし、千尋先輩にはどきどきしっぱなしだ。


 「持ち物検査するぞ~」
 げ~!っと教室中で声があがる。
 授業を終わって帰りのホームルームで、だ。
 帰りが遅くなるなぁ、なんて暢気に構える。
 だってするっていうのは前もって聞かされていて、聞かされてるのに誰もヤバイ物なんて持って来ないだろうに、と岳斗でも思ってしまう。

 千尋先輩は大丈夫かな?
 それともサボってるかな?
 …その確率の方が高いか、とくすと笑った。
 鞄の中や制服のポケットなど開けさせられて見られる。
 「長谷川…なんだ?コレは…?」

 「え?」
 岳斗の鞄の脇のポケットから出てきたのは小さな煙草。
 「…何ソレ?」
 岳斗はきょとんとした。
 「何それ、ってお前の鞄から出てきたんだろ」
 担任も驚いた顔をしていた。

 
 「知らない!です」
 生活指導室に呼ばれてしまった。
 担任と生活指導の先生と学年主任の先生に囲まれる。
 「知らないって、実際にお前の鞄から出てきたんだろう?」
 「だけど知らないものは知らないです!」
 テーブルにはショートホープ。

 千尋先輩のマルボロならまだ分かるけど…って違うし!
 担任は困惑の顔。
 「いや、でも長谷川は本当に知らなかったみたいで…」
 「しかしこうして実際に出てきたわけですから」
 「でも封も開けられてないし」
 くんと生活指導の先生が岳斗に近づいて匂いを嗅ぐ。
 「…匂いもしないな」
 「当たり前です!吸った事ないですから!」
 「…最近Linxと仲がいいらしいな?その影響じゃないのか?」
 生活指導の先生は生徒達にも煙たがられている。かなり嫌味でねちねちと嫌な感じの先生だった。
 「Linxは関係ないです!」

 なんでLinxのせいなんだよっ!と憤りが浮かぶ。
 それからも岳斗は否定を続け、担任は岳斗を庇ってくれようとして、生活指導と学年主任の先生は岳斗に岳斗の物だと吐かせようと押し問答が続いた。
 「なんにしても長谷川の鞄から出てきたのは本当の事ですから退学はなくても停学は必須だな」
 停学!?
 岳斗は顔を歪めた。普通の平凡な自分だったのに、停学!?
 自分の物でもない物のために!?
 

 ガラッと突然ドアが開いたのに全員ドアの方を見た。
 「千尋先輩っ!?」
 「篠崎!?」
 千尋先輩はちらっとテーブルの上の煙草を見て鼻で笑った。

 「吸うにしたってコイツがショッポなんて柄じゃねぇだろう?大体検査すんの分かってて持ってくるかって話だろうが。………それは岳斗のじゃねぇ、俺が持たせたんだ。それでいいだろ」
 「千尋先輩!?何言って…!」
 だってコレ千尋先輩のとも違う!
 マルボロじゃない!ってもまさか言えない。
 「岳斗、来い」
 「で、で、でもっ!」

 千尋先輩がずかずかと入ってきて岳斗の腕をとると立たせて生活指導室から連れて出て行こうとする。
 「俺を停学でも退学にでもすりゃあいい。もっとも本当の持ち主は別だけどな。岳斗、今日体育とか教室あけた時間は?」
 「え?体育…あった、けど…」
 「そん時だろ」

 そう言って千尋先輩が開けたままのドアの方を睨んだ。そこにいたのはいつやらの女子達の姿。
 他にもいっぱい人だかりが出来ている。
 「待ちなさいっ!篠崎!本当に停学か退学だぞ!」
 千尋先輩は先生の声は聞こえないかのように岳斗の腕を引っ張って生活指導室を出た。
 「鞄取って来い。帰るぞ」
 「で、で、でもっ!」
 「いいから」
 ぐいぐいと千尋先輩に腕を引っ張られ廊下を歩いていく。
 生活指導室の前は人だかり、そこをかき分け廊下を歩けばすれ違う生徒が皆驚いたように千尋先輩と岳斗を見る。

 「千尋先輩っ!」
 「お前は悪くもなんともないんだから」
 「でも!あれじゃ千尋先輩がっ!」
 「俺は別にいい」
 「よくないよっ!」
 「…とにかく、今はいいから」

 生徒の注目を浴びる中、岳斗は千尋先輩に腕を引っ張られて学校を出た。
 そのまま学校からすぐ近くの千尋先輩の家まで連れて行かれる。
 なんで千尋先輩が…?
 停学か退学…?
 そんなのやだ!だってあんなの本当に知らないのに!
 岳斗は自分の鞄から出てきた物に、先生達の態度の悔しさに目が潤んできた。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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