それにしたって!
なんか今日も色々ありすぎで、ばたばたして忘れてたけど!
……キス、したんでした。
なんで、って聞いてもいい、のかな…?
だって今日は助けてくれたし…。
岳斗だから助けた、って言ってた。
俺、ホントに千尋先輩の特別?
思わず顔が笑ってしまう。
がばっと布団に入って目を閉じた。
それに日曜日、どこかに行くか?って!
デート!
…なわけないって。でも岳斗の中でデートならそれでいいはず。
やっぱり顔は緩んでしまう。
「寝らんねぇ…」
それにしても千尋先輩が停学も退学もなんなくてよかった。
でも…来年になればもう学校にいないんだ。
それに…東京なんかに行ったら会えなくなるんだ…。
でも千尋先輩はプロにならなきゃ!
でも…。
まだ、考えなくていいから…。
岳斗は自分にそう言い聞かせて目を閉じた。
「おはよ。やっぱ長谷川ってLinxホイホイだったの?」
のんびりした口調で谷村が声をかけてきた。
「そのホイホイってなんだよ!?」
「だって昨日は千尋先輩とでしょ?よかったね?憧れの千尋先輩と仲良くなれて」
「ぅ……。それは、そうだけど」
見られてる!いきなり!
登校する生徒達が岳斗を見てこそこそと何か言っている。
「……大変ね?」
「ぅ……」
谷村が人事のように、って人事なんだろうけど。
「岳斗」
「ぁっ……お、はよござ、います」
千尋先輩だぁ~!
思わず朝から千尋先輩に会えて満面の笑みになる。
「昨日は!ありがとう、ございました!………でも、なんで…???」
今まで人前で千尋先輩が岳斗に話しかけてきた事なかったのに。
「…ああ、昨日ほとんどの奴が見てたなら今更だろ」
千尋先輩は岳斗の言いたい事を正確に把握してるらしい。
やっぱ千尋先輩は岳斗の事を考えてくれて声をかけなかったんだ。尚先輩に声をかけられて岳斗がされたような様な事が起こらないように、って考えてくれてた…?
「えへへへ~」
あれ?でも千尋先輩の家からだと裏門の方が近いはず。岳斗は正門を利用してるから…。
もしかしてわざわざ?
岳斗が千尋先輩を伺う様に見ると千尋先輩がふ、と笑った。
わざわざ岳斗を待っててくれたらしい。
うわぁ、……どうしよう…嬉しい。
「や、な奴~…朝まで出てくんな!いっつも朝はギリにしか来ないくせに」
うわ、ヤな声だ!と岳斗は思わず千尋先輩のすぐ横にくっ付くようにした。
「お前が毎朝出没するからだ。じゃな岳斗。何かあったらすぐ連絡しろ」
「なぁにが…すぐ…イテっつうの!」
千尋先輩が尚先輩の顔に肘鉄を入れてる。
そしてそのまま尚先輩を連れて行ってくれたのにほっとした。
「…やっぱLinxホイホイだ」
「ちげぇって!」
きっと岳斗が誰も知らないLinxの練習を見てるからだ。
でも勿論それは言わない。
そしてこの次のライブでLinxがなくなる、というのも言えない。
険悪だったように見えた尚先輩と千尋先輩だったけどそうじゃないみたいだ。
千尋先輩が尚先輩を殴ったはずなのに普通に見える。ううん、むしろ仲よさそうに見える。
…それならLinxやめなくてもいいのに…。
思わずそう思ってしまう。
だってLinxで演奏している時の千尋先輩は特にカッコイイから。
だって千尋先輩の曲もベースもカッコイイんだもん…。
それが聴けなくなるのが嫌だ。
「長谷川?どうかした?」
頭をうな垂れてしまった岳斗に谷村が声をかけてきた。
「なに?千尋先輩が行っちゃってがっくりなの?」
「ちげぇし!」
むしろ朝から会えたのが嬉しいッつうの!
「しかしホントに尚先輩嫌いなのね。今日すっげよく分かった」
「うん?」
「千尋先輩に会った時の顔ったらもう眩しい位の顔だったもんな」
「えっ!そんな……?」
「そりゃもう!…でも確かにカッケェわ…。俺も今日初めて間近で見たけど」
「だろ!?だろ!?」
「声もチョーよくね?」
「そう!すっ……げぇいい、の!ヤバイと思うもん!」
いや、思うじゃなくて確実にヤバイです!耳元で囁かれるとほんと腰抜けそうな感じデス!!
でも…。
岳斗は伺う様に谷村を見た。
岳斗が千尋先輩、千尋先輩、ってライブの度に騒いでるのを谷村は知ってて、それに対し谷村は笑うだけで何も言われた事はなかったけど、どう思ってるんだろう?
「…お前も好きになっちゃう?」
「なるか!!男としてカッケェ、って言っただけだ。羨ましいとは思っても好きになるか!しかしいつの間に仲良くなってたの?」
でも特に谷村に変わりはなくて、変な視線は混じってない…みたい。
「……いつの間にか…」
屋上で、も内緒だから言わない。
それは岳斗と千尋先輩だけの秘密だ。
テーマ : 自作BL小説
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