2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

羽は散り堕ちた。 1

 6月になって衣替えをしてテスト。
 テスト期間中は岳斗もバイトも休みにしてもらった。
 そして午前だけで終わるから早い時間に2時間だけLinxが練習をするのに岳斗も毎日50’sに行っていた。

 あと少しでLinxがなくなると思うと泣きたくなってくる。
 それにLinxのメンバーもかなり気合が見えた。
 テストなのにそれでも毎日練習。
 そしてLinxの練習の後千尋先輩に勉強を見てもらって、が岳斗の毎日になっていた。

 テスト最終日も岳斗はバイトに休みをもらっていた。
 Linxの練習を見られる最後の日だったから。
 そのすぐ後の日曜がライブの日だ。
 谷村はすでにライブのチケットは買わせられたらしいけど、岳斗はまだだった。ボーカルのタカ先輩に岳斗の分はいい、と言われたらしい。
 千尋先輩から買えばいいのかな?でも千尋先輩も何も言ってくれないし、とちょっと不安はよぎるけど、まさか来なくていいなんて言いはしない、はず。
 
 テスト最終日。でこの日は4時間もLinxは練習。
 その全部を岳斗は見ていた。
 ただ黙って、じっと。
 メンバーがこうした方がいい、とか色々話し合いながらしているのに、いいなぁ、と羨ましくなる。
 一所懸命なLinxが皆カッコよかった。

 そしてカッコイイ千尋先輩のカッコイイ曲が聴けなくなると思うと泣きたくなってくる。
 ベースは聴けるけど、千尋先輩の作った曲も好きなのに。
 岳斗は歌詞よりも曲の方が耳に入ってきてどうも歌詞にはあまり意識が向かない。
 いつも音を聴いてしまう。
 でもあの新しい曲はいつもよりも多く言葉が耳に入ってくる気がする。

 「じゃ、最後に通しで」
 千尋先輩が声をかけた。
 岳斗の好きなギターソロからベースのグリッサンドで入る曲だ。
 これを聴けるのも今を終わったらあと1回。
 どれもこれもあと1回しか聴けなくなるんだ。

 全部の曲が今までで一番カッコイイ出来になっている。尚先輩のよくコードを間違っていた所もなくなっている。そしてきっとここだけじゃなくて皆家で練習してるんだ。
 音が纏まってる。ばらついていない。
 いつも千尋先輩のベースしか聴こえなかったけどいつもよりも皆の音が聴こえる。
 勿論一番は千尋先輩のベースだし、視線は千尋先輩にしか向かないんだけど…。
 それでもいいのはやっぱりよくて。
 あのバラードもいつ聴いても岳斗の心を揺さぶってくるし、ロック調ではリズムを取りたくなる。
 でもどれもあと1回なんだ。
 最後まで弾き終えると千尋先輩は満足そうな顔。
 「いいだろう。このまま、な」
 「エラソー!」
 尚先輩の軽口。
 最初は険悪なのかと思ったけどそうじゃなかった。険悪だったらバンドなんて組んでいないんだろう。

 「う~~~~~……」
 「岳斗?…また泣いてる…」
 呆れたような千尋先輩の声。
 「だって~~~~!もっと聴いてたいんだもん!解散、やだよぉ…」
 ずっと岳斗はそれを言わなかった。だって岳斗の問題じゃないから。
 Linxが決めた事に部外者の岳斗が言っちゃいけない事だって分かってるけど我慢できなかった。
 「千尋先輩…やだ、……もっとLinx聴いてたい…」
 「……岳斗、こっち来い」

 拳で涙を拭きながら千尋先輩に近づけばほら、とチケットを渡された。
 「…チケット」
 「そう。エントリーしたバンドに招待券2枚貰えるんだ。Linxは使った事なかったけど、最後でお前だけにはって」
 「岳斗はちゃんと曲聴いてくれてるし」
 尚先輩が付け加えてくれる。
 「谷村に聞いた。ずっと毎回来てたんだろ?ま、谷村も来てたけど、あれとまた別だからな。あれは俺に脅されて来てるだけだし」
 タカ先輩が苦笑してる。
 「純粋なファンってもしかして岳斗だけなんじゃねぇの?いや、純粋ってんでもねぇか?でも曲ちゃんと聴いてるのは岳斗だけかもな?」
 尚先輩が笑った。
 千尋先輩からじゃなくてLinxからの招待券にさらに泣けてくる。

 「やっぱやだよぉ……」
 「ばーか」
 千尋先輩が甘い声で岳斗の耳元に囁く。
 「お前泣きすぎ」
 「仕方ねぇんじゃね?恋する乙女ちゃんだろ?」
 尚先輩が茶々を入れてくる。
 「ちげぇしっ!」
 「先輩に向かってちげぇはねぇだろ!」
 尚先輩と普通に話せるのも千尋先輩がいるからだ。

 「…お前、Linxのファンなの?」
 千尋先輩が小さく岳斗の顔を覗きこみながら聞いてきた。
 「違う~。千尋先輩の!でも千尋先輩の曲するのLinxしかいねぇもん」
 「……そこかよ!」
 けっ!と尚先輩が声を吐き出して片付けを始める。
 「ラスト1回のライブちゃんと聴けよ?」
 それでも尚先輩は怒ってはない。
 「聴く!」
 よし、と尚先輩が頷くと、千尋先輩は岳斗の頭をぐしゃっと撫でた。
 「お前あっちで顔洗って来い」
 「はぁい」
 「お前は本当に高校生男子か!?」
 尚先輩の呆れたような声。
 「そうです~~~!」
 べっと尚先輩に舌を出す。そんな俺にキスなんかしたのは誰だよ!?  
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

電子書籍

サイトはこちら

バナークリック↓ banner.jpg

Twitter

いらっしゃいませ~♪

リンク