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羽は散り堕ちた。 2

 目を赤くしてる岳斗に千尋先輩の叔父さんがくっくっと笑っている。
 「タオル、はい」
 「ありがとうございます…」
 大泣きしてしまったのに岳斗も急に恥かしくなってくる。
 Linxは片づけ中だ。この機会に、と岳斗は口を開いた。

 「千尋先輩の叔父さん」
 「うん?」
 叔父さんはいつも何か事務の仕事をしてる。店が始まったら店で忙しくなるからだろうけど。
 「千尋先輩のお母さんっていつもあんな感じ…?」
 「ああ、……知ってるんだ?」
 叔父さんが顔を上げて岳斗を見た。
 「んと…たまたま千尋先輩の家にいて、ちょっと色々あった時に…」
 「いつもあんな感じだよ」
 「う~…なんでかな…?」
 「仕方ないね。外聞が大事な人達だから」
 人達…。千尋先輩も母方も父方も、って言ってた。
 「…千尋先輩の味方、叔父さんだけ?」
 「…かもね」
 「でも千尋先輩すごいのに…なんで分かんないのかな…?」
 ぽつんと岳斗が呟くと叔父さんが笑った。

 「それで千尋も迷ってた。でも岳斗くんの言葉で決めたんだろうから」
 「え?」
 「プロに、ってね…」
 「そ…な、の…?」
 「多分ね」
 嬉しいけど嬉しくない。かなり複雑だ。
 でも千尋先輩から聞いたわけじゃないからこれは本当かどうか分からないけど…。
 今はそれよりLinxのラストライブだ。

 岳斗はLinxから貰った招待券を見て笑みを浮かべ、そっと大事に手に挟んだ。



 「俺ね!千尋先輩のベースを弾いてるとこ見て聴くのが一番好きだけど、曲もすごくいいと思うんだ!」
 千尋先輩がお店の準備をしている後ろにいつも岳斗はくっ付いて話を勝手にしながら、ちょっとだけお手伝いというほどのものでもないけど、千尋先輩の手助けもする。
 「そう?…そいつはどうも」
 「曲提供してベーシスト、とか!凄くない!?」
 「………お前、幸せだよな」
 千尋先輩が岳斗を見てくす、っと笑った。
 「ホントにそう思うのに」
 「はいはい。…………岳斗」

 ちょい、と指で千尋先輩が叔父さんのいるスタッフルームから死角の所に呼ばれる。
 岳斗はいつもそれにドキドキする。
 だってそれはキスの合図だから。
 「岳斗」
 千尋先輩が小さく甘く名前を耳元で呼んでくれると心臓が掴まれた様に苦しくなる。

 そして唇を啄ばまれて重ねる。
 もう何度キスしたんだろう?
 それでも岳斗はどうして?とまだ聞けない。そして自分も好きだと言えていない。
 いつでも千尋先輩に対して好きは溢れてる。溢れすぎている位なのに。
 顔が真っ赤になって耳まで熱くなるのもいつも一緒。
 そして千尋先輩の顔が変わらないのも一緒。
 でもキスを交わしてるときは熱が伝わってくる。

 「ど、して…キス、する、の…?」
 思わず聞いてしまった。
 すると千尋先輩は目を大きく見開いた。
 「今更聞くかソレ?」
 「…だって、分かんないもん…」
 千尋先輩が頭を抱えた。
 「………また今度な?」
 また今度な?
 ……意味分かんない。なにそれ?
 

 Linxのライブまで学校とバイト。
 あと岳斗が見られるのはライブ1回だけなんだ。
 耳に目に焼き付けておかないと。
 写メしちゃだめかなぁ…とか動画撮ろうかなぁ、とか密かに目論んでいるけど、きっと曲始まったら千尋先輩から目は離せないだろうし無理だな、と諦める。

 「長谷川どうすんの?」
 「何が?」
 「ライブ。行くんだろ?Linxと一緒?」
 「んなわけないじゃん!!」
 谷村に聞かれて慌てて答えた。
 「お前と一緒に行く」
 「あっそ?」
 「うん」

 「おは~よぉ」
 尚先輩が近づいてきた。もう毎朝の事で気にしない!
 「あ、ちょっと友達君、岳斗に話あっから先行って?」
 「え!やだ!俺ないし!」
 「ダメ」
 尚先輩にしっしっと谷村が追い払われた。
 「あのさ、聞きたかったんだけど」
 あれ?なんかホントに話あんの?
 きょとんとして岳斗は尚先輩を見た。

 「新曲のバラードあるだろ?」
 誰にも聞こえない様にか尚先輩が岳斗の耳に囁くように言った。
 「うん」 
 岳斗がチョー感動したやつだ。
 「アレ、千尋の作詞作曲なわけ」
 「うん。知ってる」
 「それ聴いてどう思う?」
 「え?凄いなぁって。曲綺麗だし、詞も合ってるし、ベースラインは…」
 「違くて!」
 違う?

 「……やっぱ分かってねぇんだ?どうもおかしいな、と思ったら。お前さ、あれ、もうライブでラストだろ?二度と聴けないんだ、と思う」
 「……うん」
 「千尋の思いが入ってる」
 「え…?ラブ・バラードでしょ…?」
 「そう。だから心して聴けよ?」
 「どういう事?」
 「……いやぁ…お前面倒だな」
 はぁ、と尚先輩が溜息を吐いた。
 「キス以上ってしてんの?」
 「は?」
 「コレ、じゃ無理か…すげぇな、千尋我慢してんのか…?」
 じろ~りと尚先輩が岳斗を眺めた。
 「可愛いけど、な…う~~ん……大事ってか?う~~~ん……千尋がねぇ…信じられねぇなぁ…」
 ぶつぶつ呟いて行ってしまった尚先輩に岳斗は首を傾げた。
 心して聴け?我慢?大事?
 ………なんの事???
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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