「…解散、なんだ?」
「…うん」
谷村もどこか呆然とした様子だった。
「ほら、お前あっち行くんだろ?俺は帰るから。凄くよかった、って言っておいて」
「うん」
会場で谷村と別れて岳斗はスタッフの人に声をかけた。
ちゃんと話は聞いていたらしく岳斗はLinxのいる控え室に連れて行ってもらった。
「なんだ?泣いてないじゃん!」
尚先輩の声。
確かに岳斗は今は泣いてなかったんだけど…。
千尋先輩が煙草を吸いながら岳斗を見て、視線が合った途端に岳斗は滂沱した。
「ち、ひろ…せ、…ぱ…」
我慢出来なくてどんと煙草を持った千尋先輩にぶつかるように抱きついた。
「おま、あぶねぇ!」
「あらら…」
尚先輩が笑ってる声が聞こえた。タカ先輩もドラムのコウ先輩も。
千尋先輩が煙草を消してるのが分かったけど、気持ちが溢れてもう涙が止まらない。
「岳斗…どうだった…?」
千尋先輩の甘い声が耳に響く。
「よ、かった…よ……カッケェ、かった……」
「知ってるぅ?岳斗くんは千尋先輩から一度も他所に視線向けないんだよぉ?」
尚先輩がからかってくる。
「だって!千尋先輩が一番カッケェもん!でも聴こえてるもん!尚先輩途中遅れたとこあった!!」
分かられてやんの!とタカ先輩が笑ってる。
「そんなの岳斗しか気付かねぇしっ!ちぇ、最後までダメだしかよ」
「……ううん。皆カッケかったよ?よかったもん、曲…」
思い出せば泣き止みそうだった涙がまた溢れてくる。
「谷村も凄くよかった、って…伝えて、って言ってた」
千尋先輩から離れないままでタカ先輩に向かって言うとタカ先輩も満足そうだった。
「アイツもなんだかんだでずっと来てたからなぁ」
「後輩脅して来させてたんだろ」
皆が笑ってる。
Linxは今日で終わりなのに笑ってる…。
千尋先輩は岳斗の背中を撫でてくれていて、その千尋先輩を涙で潤んだ目で見上げた。
「…なんだ?」
「ん……凄くよかった、よ…」
ふっと千尋先輩が笑ったのにまたぎゅっと心が苦しくなる。
そしてはたと思い余って抱きついていたのにわたわたと慌てて離れた。
「岳斗く~ん?ちゃんと最後の曲、しっかりと聴いた~?」
「ぅ………」
尚先輩のからかいの言葉にかぁっと岳斗が耳まで赤くするとふぅんと尚先輩がにやにやと笑った。
「やっと分かったんだ?」
「尚、ウゼェ」
千尋先輩がチッと舌打ちしながら言えばタカ先輩もコウ先輩もにやけている。
「照れるな千尋」
「ウルセェ。帰るぞ岳斗」
「え?…あ?」
「待てよ。俺らも帰るって。っつうか千尋は岳斗連れてるから裏から出れば?」
「…そうだな」
千尋先輩と尚先輩は背中にそれぞれベースとギターを背負っている。
そして自然に4人が輪を作った。
拳を出して無言でそれぞれコツンと合わせてる。
それを見てまた岳斗は涙が零れてきた。
「コイツ泣き過ぎじゃね?」
尚先輩が岳斗の頭を小突く。
「そんでまた千尋に泣かされんのかぁ」
「……るせぇぞ、尚」
千尋先輩の腕が岳斗を隠すように抱え込んできた。
「岳斗?」
「え?何?」
尚先輩に呼ばれて涙を拭いながら尚先輩を見た。
「…いや、なんでもねぇ。……千尋、じゃあ、な」
「ああ」
尚先輩が満足そうに笑って言えば千尋先輩が答え、タカ先輩もコウ先輩も笑っていた。
そしてあっけなく4人が別れる。
本当にLinxの解散、なんだ…。
去っていく3人の背中が涙で霞んでくる。
「お前、ホント泣きすぎ」
「だってぇ…」
千尋先輩の腕が岳斗の頭を抱えてくれる。
「千尋先輩…」
あの曲…。
ホントに…?
ううん、と岳斗は頭を振った。
「何でもない…」
「……帰るぞ」
「……うん」
千尋先輩に連れられて裏口へ。
裏口に人はいなくてすんなりと出られた。
そのまま千尋先輩のバイクが停めてある所まで歩いていく。
ずっと無言だった。
そして無言だったけど千尋先輩の腕はずっと岳斗を離さない。
なんで…?ってもう聞かなくていい、のかな…?
好きって言わなくても千尋先輩には聞こえてた…?
あの歌詞が…。
尚先輩が心して聴けといった曲。
そして曲の前に岳斗に向かって千尋先輩が歌聴けって口パクで伝えてきた。
ねぇ、千尋先輩…。
ホントに…?
俺、言ってもいい?
千尋先輩、も返してくれる…?
やっぱり言いたい。そして欲しいよ…。
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