千尋先輩のバイクの後ろに乗せられて50’sへ。
店は日曜日で休みだけど千尋先輩が鍵を開けて中に入る。
暗い店内からスタッフルームに入って電気をつけた。
「お前、ウーロン茶でいいか?」
「え?別に喉渇いてないよ?」
「いや、水分補給しといた方いいだろ。干からびるぞ?」
「なんねぇもんっ!」
泣きすぎだと言いたいんだろう。
「勝手にいいの?飲んじゃったりして」
店の物なのに…。
「いい」
千尋先輩も自分の分でウーロン茶を用意したのにぷっと思わず笑ってしまった。
「千尋先輩もウーロン茶なの?ビールとかお酒かと思った」
「お前いるしバイク乗るから酒は飲まない」
意外とマジメだ。
「バイクに煙草にバンドに…ウーロン茶!」
「うるせ」
スタッフルームのソファに座ってウーロン茶を持って笑った。
隣には千尋先輩。
「千尋先輩……カッコよかったよ?ベースも凄くて……前よりも音がさらに綺麗に深くなった、感じ…」
「ああ……」
うっとりとして岳斗が言えば、千尋先輩がウーロン茶を飲みながら薄く笑った。
やっぱお酒の方合うのに!
思わず千尋先輩を見てぷっとふき出すと千尋先輩は岳斗がそう思った事を分かったのかこの、と言って岳斗の頭を腕で抱え込んだ。
「うわっ!ギブ!ギブ!」
「ダメ」
千尋先輩からふわりと煙草とフレグランスの香り。
千尋先輩に掴まれて腕の中だ。思わず岳斗はぎゅっと千尋先輩のTシャツを掴んだ。
「岳斗…」
ふざけていた千尋先輩が岳斗の耳に息を吹きかけるようにして名前を呼んできたのに岳斗の心臓が跳ね上がった。
「ち、ひろ…せん、ぱい」
「……岳斗、曲……分かった、か?」
「…う、ん………あれ、俺……の、事…なの?」
「……ああ」
うわぁ~~~~と岳斗は恥かしくて顔が燃えそうに熱くなった。
千尋先輩の腕の中に顔を隠そうとしたら千尋先輩が両頬を押さえて顔を上げさせられた。
「ち、ちひろ、せ、んぱい…」
恥ずかしいよと言いたかったのに千尋先輩の切れ長の目がじっと岳斗を見つめていたから言えなくて…。
ソファに座って千尋先輩に抱きしめられているのが夢のようで。
あの岳斗が感動した曲が自分の事だったなんて知らなくて。
ずっと憧れるだけだったのに、今ではキスまでしてる…。
「岳斗…」
千尋先輩の甘い声が岳斗の耳に聞こえればもう身体が蕩けそうになってくる。
「ちひろ、せんぱいぃ……」
千尋先輩のカッケェ顔が近づいてくる。
そっと唇が重なって、下唇を啄ばまれた。舌を差し出されて口腔に侵入してくる。
「ん……っぅ……」
心臓が苦しい。
好き。
千尋先輩の舌がそっと岳斗の舌に絡まってくると今度は思い切り強く抱きしめられキスが激しくなった。荒々しく食べられるんじゃないかと思う位に千尋先輩に舌を吸われてしんとした室内に水音が響き渡る。
「…ふ……ん…っ…!」
身体が熱を持ってじんじんとしてくる。力が段々抜けてくると千尋先輩にソファに身体を倒された。
「…岳斗……好きだ」
千尋先輩の目が岳斗をじっと見つめていた。本当に…?千尋先輩からそんな言葉が聞けるなんて嘘みたいだ!
夢…?
「千尋先輩…俺も……大好き」
「……知ってる。いつもお前の目が、態度が全部そう言ってるから」
ナニソレ!恥ずかしいっ!!!
「いつも、いつも……全部…」
千尋先輩は岳斗が思ってる事を全部知っている?
「電話切る時も…聞こえてきた」
「そんな…?」
「ああ…俺を呼んで間を空けただろ。…今度はちゃんと言え」
「千尋先輩、好き…大好き、なんだ…」
「ああ…。俺も好きだ。…お前が可愛い」
ホントに…?
「千尋先輩~…」
うわぁんと泣いて千尋先輩の首に腕を回した。
「また泣く…」
千尋先輩の低い声が耳に聞こえる。だって…!嬉しい…。
「岳斗…」
岳斗だけを呼ぶ声。
千尋先輩の腕が岳斗の身体をぎゅうと抱きしめてくれる。
煙草の微かな匂い。千尋先輩の香り。
「千尋先輩……千尋先輩……」
何度も何度も名前を呼んだ。
「岳斗」
そしてまた唇が重なって貪られる。
顔色が変わらない千尋先輩だけど口腔は熱い位だ。腕も体温も身体中が熱い。
これは岳斗だけじゃない?千尋先輩もなの?
性急に求められ、絡まる舌。突かれて、吸い上げられて、口腔を蠢く。
「あ、ぁ……は…ぁ……」
息も熱い。全部が熱い、んだ…。
テーマ : BL小説
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