Linxが解散してしまったけれど、千尋先輩が東京に行って、そのうちバンド組んでライブ出る事になったら見に行くからバイトは続ける!
…と家に公言して岳斗はバイトを続けていた。
テストは千尋先輩に見てもらったおかげでどうやら成績を現状維持出来て、バイト辞めなさい!も言われずに済んだ。
千尋先輩に教えてもらわなかったらかなりやばかったと今更ながら恐ろしくなる。
これからはちゃんと勉強もしとかないと、と千尋先輩に貰った言葉で岳斗の中が大分落ち着いたと思う。
千尋先輩の後を追いかけて自分も東京に行く!
決めてるのはそれだけなので自分は大学か専門学校を考えなくちゃいけない。
でもどうしたいかなんて分からない。
だって好きなのは千尋先輩だけで、大事なのも千尋先輩だけだ。
夏休みもバイトの予定だ。
それに千尋先輩も。
千尋先輩は親の援助なんて見込めないので全部自分でどうにかする気らしい。
叔父さんが一応助けてはくれるつもりらしいけど、千尋先輩はそれにおんぶに抱っこはするつもりはなくて、自分でどうにか出来ない時だけお願いする、というつもりらしい。
だから夏休みにバイトをいっぱい詰め込んでいる。
受験もしないから、もうバイトバイトでほとんど休みなしの予定。
確かに一日中自由になる夏休みで稼がないといけないとは思うけど…。
ふるふると岳斗は頭を振った。
……仕方ない。
7月に入って、もう皆夏休みで浮かれモード。
そしてLinxが解散して、さらに3年生は受験が控えているからか岳斗に構っていられなくなったらしい。
岳斗が学校で注目を集める事もなくなってまた屋上にいけるようになっていた。
でも夏休みに入ればこの時間はなくなってしまう。
そして夏休みが終わればもう数える位しかここに来なくなるんだ…。
さすがに12月1月は寒くて外にいられないだろうし、2月になれば3年生はほとんど学校に来なくなる。
そうすると大体3ヶ月位か…。
屋上の日陰で岳斗の膝に頭を乗せている千尋先輩の額に汗が浮かんでいる。
「岳斗…」
その千尋先輩が名前を呼んで岳斗の頭をぐいと引っ張った。
交わされるキス。
もう数え切れない位キスはしてる。
変わったのはこれくらいだろうか…?
いや、キスだってちゃんと言葉を貰う前から50’sでしてたから変わりない…?
エッチは結局ライブ後のあれ一回きり。
千尋先輩は岳斗じゃ満足じゃなかったんだ、きっと…。
だよね…。だって岳斗はオンナじゃないし…。
でもこうして一緒にいてくれる。
学校を終わると一緒に帰って千尋先輩の家へ。そこでちょっと時間を潰してからバイトがある千尋先輩のバイクに乗せてもらって岳斗もバイトがあれば送ってもらってバイト。
日曜日も千尋先輩はバイトを単発で入れるようになったし、ベースの助っ人がある時はそれにも行く。
すごく忙しくて大変だと思う。
「千尋先輩…疲れてない…?大丈夫…?」
「ん?ああ。とりあえず。夜はちゃんと寝てるし。岳斗にメールした後寝てるぞ?たまには曲浮かんで起きる時もあっけど」
「ご飯食べてる?」
「それも一応用意はされてるから。親として最低限の義務とでも思ってんだろ」
それならいいけど…。
「岳斗…。ごめん」
「え?」
千尋先輩がじっと岳斗を見ていた。
「全然会えてない、な」
「……今会ってるけど?」
千尋先輩の言っている意味合いは分かったけれどそれに同意は出来ない。
プロに、と言ったのは岳斗だ。
それを応援するのも岳斗なんだから。
「だって東京出るって大変な事だから…。俺のバイトの分もホントは千尋先輩に…」
「いらねぇ。お前が貯めとけ。そんで会いに来い」
「………うん。いっぱい貯まったらしょっちゅう行っちゃうよ?」
「いい」
千尋先輩が即答で答えてくれるのが嬉しい。
「うん…行く。絶対」
「ああ」
千尋先輩の大きな手が岳斗の頬を撫ぜる。
そういえば…。
「千尋先輩、煙草減った?」
「あ?いや?別に減ってはない、けど…。ああ、岳斗といる時はあんま吸わねぇな。お前が吸わないから、な」
「いいのに…。俺千尋先輩の匂い好き」
くんと千尋先輩の首筋に顔を近づけた。
「ばか、ヤメロ。汗くせぇだろ」
「ううん?全然。あ、でも煙草減らして…?きっとあんまりよくないよ?肺真っ黒だよ?」
岳斗が言うとぷっと千尋先輩がふきだした。
「今更遅くね?」
「遅くない」
「う~~~ん……」
減らす気もやめる気もないらしいのに岳斗はむっと口を尖らせた。
「…心配なのに」
「お前だけだ。俺にそんな事言うの」
「そんな事ないです」
「…あるよ」
頭を引き寄せられ、ちょんとキスされてごまかされた。
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